english


お好み焼き〜広島の復興とともに
戦後支えた古里の味


おいしくてボリュームのあるお好み焼き。ソースの匂いや、ジュージューと焼ける音が好きな人も多いでしょう。

重ね焼きを特徴とする広島風のお好み焼きは、原爆で焼け野原になった広島で生まれました。身近な道具と食材で、始めやすかったからです。屋台や自宅の一角で開業する姿が多く見られました。人々の生計を支え、おなかを満たしたお好み焼きは「復興のシンボル」とされています。

今もお好み焼き店がたくさんある広島。県内には、お好み焼き店(焼きそば、たこ焼き店含む)が約1800もあり、人口当たりの店舗数は、全国トップです。それぞれの店、地域が味や具材で特徴を出そうとしているだけでなく、材料も地元産を使って、真の「特産品」にしようとする動きが見られます。


元は屋台 「みっちゃん総本店」井畝満夫(いせ・みつお)さん(79)
「全部伝える」伝授に力

オリジナルソースを前にお好み焼きへの思いを語る井畝さん


広島市中心部で「みっちゃん総本店」3店を運営する「いせ」(西区)の会長井畝満夫さん(79)は1946年に旧満州(中国東北部)から家族で引き揚げてきました。父が50年に新天地でお好み焼き屋台「美笠屋(みかさや)」を開業。病気がちの父に代わって一家7人を支えるため井畝さんが切り盛りし、まもなく店名も分かりやすい「みっちゃん」にしました。

初めは一銭洋食を作っていました。しかし、子どもしか買ってくれず生活できないため、友達などからアドバイスを受けてキャベツや豚肉を入れるようになりました。

井畝さんは今も平日、開店から午後2時まで店に出ています。長年の経験で培われた味と焼き方。「企業秘密なんてない。全部教える」と伝授に積極的です。若い人たちには、自分が食べるつもりで焼くよう教えています。(高1・高橋寧々、中3・木村友美)


住宅街で 「さざんか」三宅花子(みやけ・はなこ)さん(74)
話楽しみ一人切り盛り

54年間使い続けているへらと鉄板でお好み焼きを作る三宅さん(撮影・中3佐々木玲奈)


「店は生きがい。辞めたいと思ったことがない」。開業54年を迎えたお好み焼き店「さざんか」(西区)の三宅花子さん(74)は言います。

子どものころに両親を病気で亡くした三宅さんは、母のいとこである故三々賀(さざんか)シズカさんに育てられました。住宅街に近い今の場所で1954年、三々賀さんと果物店を始めました。そして57年、まだ知られていなかったお好み焼き店を始めたのです。

10年後に三々賀さんが引退。三宅さんが夫と店を継ぎました。三宅さんがお好み焼き、夫がうどんやすしを作りました。お好み焼きは一家の家計を支えてきました。体の弱い夫が入退院を繰り返す中、息子2人を育て上げたのです。20年前に夫が亡くなってからは三宅さん一人で店を切り盛りしています。

54年間、元来の作り方を守ってきました。焼くへらも鉄板も、開業以来そのままです。「お客さんとおしゃべりするのが楽しい。元気なうちは、80歳、90歳になっても焼きたい」と三宅さんは意気込みます。(中3・市村優佳、佐々木玲奈)



「広島風」の起源は? 関東・関西から伝わった説

広島風のお好み焼きは、関東の「どんどん焼き」や関西の「一銭洋食」が伝わったと考えられています。1950年ごろから繁華街の新天地(現広島市中区)や広島駅前(現南区)にお好み焼きの屋台ができ始めました。住宅街でも、戦争で夫を亡くした女性が生計を立てるため、駄菓子店を兼ねて店を開くようになりました。

鉄板は、焼け野原に転がっていたり、鉄工所から安く買ってきたりして設置。下に練炭入りのしちりんを置くだけのつくりでした。

当時は、小麦粉を水で溶いた皮に魚粉やネギ、かまぼこなどを置いて焼き半月状に折った一銭洋食を売っていました。その後、安いキャベツや豚肉を入れ、米国からの小麦を使い、現在のようなボリュームのあるお好み焼きへと進化しました。専用ソースも作られました。また、中国から戻った人が中華めんを取り入れたともいわれています。(高1・秋山順一)



「広島産」増へ新組織

お好み焼きをはじめ、広島県ではキャベツが多く消費されています。しかし、県内の主な市場に入荷しているキャベツのうち、県内産は1割足らず。ほとんどが愛知や九州など県外産です。そんな中、県内産を増やそうと2009年、広島県や県内の農協、全国農業協同組合連合会(JA全農)ひろしまなどが「県域キャベツ連携推進会議」を設立しました。

会議では、計画的に生産を増やす働き掛けや安定した販売先の開拓、効果的な栽培や出荷方法の情報交換などをしています。13年度には、作付面積を今の3倍の100ヘクタールにする目標を掲げています。(中2・河野新大)

使われるキャベツ ほぼ県外から…

品質好評 作付け拡大 世羅の法人「恵」

「寒玉」が植えられたキャベツ畑=広島県世羅町(撮影・高1秋山順一)

広島県世羅町の農事組合法人「恵(めぐみ)」は、4ヘクタールという広大な面積でキャベツを栽培しています。作り始めた2007年は25アールの小規模でした。「おいしい」と評判で、徐々に規模を拡大し、今の広さになりました。

加熱すると甘くなる「寒玉(かんだま)」を栽培。レストランやスーパー、もちろんお好み焼き店でも好評です。町内のお好み焼き店では、畑まで買いに来てくれるところもあるそうです。

「おいしいと言ってくれるのは、日々のやる気につながる」と代表理事の宮迫恒也さん(49)。これからも面積を広げていくそうです。(高2・畦池沙也加)


開業支援へ全国センター オタフクソース

おたふくソース(広島市西区)は1987年、東京進出に合わせて、お好み焼きを本格的に広めようと「お好み焼き研修センター」を開設しました。今は広島や大阪、福岡など全国に8カ所あります。うち5カ所で開業を目指す人に研修しています。仙台は、東日本大震災の復興支援として今月から始めました。

開業支援では、お好み焼きの作り方や食材の選び方、店の経営について教えます。これまでに約4000人が受講しました。広島校の講師をしている、お好み焼課チーフスタッフの川本和晴さん(34)によると、広島校の受講者は最終的に半数くらいが開業している、とのことです。

川本さんは「お好み焼きが好きじゃないと店はできない」ときっぱり。オープンした受講生の店を食べ歩くのが楽しみだそうです。(高2・熊谷香奈)

ご当地焼き 各地に続々

広島県では、各地の特産品を使った「ご当地お好み焼き」が増えています。毎年10月に広島城(広島市中区)周辺で開かれているひろしまフードフェスティバルの行事の一環として、昨年から「広島てっぱんグランプリ」が開かれています。第1回は「府中焼き」、第2回は「庄原焼き」がグランプリに輝きました。

特産品だけでなくキムチ、大葉、トマトなど入れるとおいしい具材がたくさんあります。いろいろ入れて楽しむといいようです。(中1・重田奈穂)

広島県の主な「ご当地お好み焼き」
名前 主な特徴
府中焼き  豚ひき肉を使用
庄原焼き  麺類の代わりに「庄原米」、ソースの代わりに「ポン酢」を使用
尾道焼き  鶏の砂ずり、地元産のイカ天を入れる
坂ようよう焼き  特産品の「もち麦」を使い、歩きながら食べられる形
純米吟醸たけはら焼き  生地に地酒の酒かすを練り込む
三原焼き  特産の「タコ」を入れる