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世界の中のヒロシマ

(23)灯籠流し 平和の願い映す 丸田純子

森と湖で有名なミネソタ州の州都セントポールから東南に約150キロ。トウモロコシ畑の間に人口約10万人のロチェスター市があります。市の中心部には病院などの近代的な高層ビルもありますが、数ブロック北に行けばシルバー・レイク公園が緑の木立に見え隠れします。

この公園は遊歩道も造られ、市民の憩いの場所です。独立記念日(7月4日)の花火大会をはじめ、多くのイベントが催されていて、8月上旬に私たちが開いている式典や灯籠(とうろう)流しも恒例行事の一つとして親しまれるようになりました。

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太鼓演奏の中それぞれのメッセージを書いた灯籠を湖に運ぶ参加者たち

まるた・じゅんこ

静岡県生まれ。1972年に渡米。ロチェスター市国際関係委員会の委員を務める。

このイベントは1985年、平和運動家のルシル・クールさんによって始められました。広島の灯籠流しを本で読んで、最初は木の枝を組み合わせて作ってみたと話してくれた謙虚な女性です。その後、フランシスカン派の神父や尼僧たちが礼拝形式で続けていましたが、被爆50周年の95年、私が責任者となるよう依頼されました。

世界で初めての被爆国となった日本人としての自覚を新たにし、当時ロチェスター市に滞在していた日本人医師夫妻と一緒にいろいろな企画を練りました。

まずは200人分の灯籠キットを用意。被爆者の写真パネルを作って展示しました。縁あってその年に長崎市長に選ばれた故伊藤一長氏にメッセージも依頼しました。ロチェスター市長や有識者の方々を招待し、偶然に知り合った女性シンガーに生演奏を依頼したり、町中の教会や市民団体組織にPRしたりと、次々に実行していきました。

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節目の年でもあり、新聞社やテレビ局にも大きく取り上げられ、予想以上の成果を収めました。フランシスカン派の尼僧の方々からはもちろん、平和推進会や市からの後援も受けるようになりました。そして以後12年間、その経験を基に原爆のビデオを見ての討論会や被爆者の詩の朗読などさまざまなプログラムを考え実行してきました。

昨夏は伊藤市長の追悼式典と銘打ち、こちらの市長やジャーナリスト、医学生をゲストスピーカーに招待しました。核兵器全廃、恒久平和の訴えに200人ほどの参加者は熱心に耳を傾け、おのおのが作った灯籠をネイティブアメリカンたちの演奏する太鼓に合わせて湖に浮かべました。

天気が悪く例年のような息をのむ美しい夕焼けはありませんでしたが、たくさんの灯(ひ)が湖にたゆたい、平和への願いを映し出していました。