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たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「再生 安心社会」

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第1部 模索

5.人づくり

−鍵握る地域リーダー−

 昨年七月、奈良県警は五十歳代の男性に対し、県条例に基づく「警告」をした。

 県北部のある町で、男性は下校中の男児に何度も声を掛け、駅まで車で送っていた。悪意はなく趣味だったという。だが県警の判断は「子どもを犯罪の被害から守る条例に違反する」だった。警告後、声掛けはやんだ。

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防犯リーダーを育成する「安全・安心アカデミー」で専門家の講義を聴く参加者(広島市中区の市青少年センター)

▽全国で初の規制

 この条例は、十三歳未満の子どもに不安を与えるつきまといなどの行為や、子どもポルノの所持を原則禁止する。連れ去りや性犯罪の契機になる恐れがある行為の規制に全国で初めて踏み込んだ。一部の規定は罰則も設ける。「子どもに声を掛けたら罪になるのか」「監視社会になりかねない」という批判もある。

 奈良県では二〇〇四年十一月、広島市安芸区の木下あいりちゃん事件と同様、小一女児が誘拐され、殺される事件があった。犯人の男は「車で送ってあげようか」と女児に声を掛けた。何とか女の子を救う手だてはなかったのか―。条例制定の背景には、今も消えない事件への悔恨がある。

 広島県は、あいりちゃん事件を教訓に今月、新たな防犯指針を打ち出した。事件が通学路で起きたことを踏まえ、子どもの安全確保を学校内にとどまらず、通学路にまで広げる内容だ。

 それぞれ痛ましい事件を経て、行政は模索を続ける。一方で、条例や指針だけでは、安心社会の実現はおぼつかない。

▽ノウハウを還元

 「ノウハウを地域に」。広島県警は、犯罪の起こりにくい街づくりを目指し、広島大と共同研究に乗り出した。県警が地域の犯罪情報を提供、教授ら専門家と安心社会実現の手だてを検討し、地域に還元する狙いだ。

 警察官や教授、専門家が防犯に関して住民計百二十人に講義する「安全・安心アカデミー」も十月から広島、呉、福山の三地域で始まった。四日間計二十時間で防犯リーダーを育成する初めての試みである。

 「行政や警察だけの発想では限界がある」。講師を務めた宮崎県清武町の特定非営利活動法人(NPO法人)きよたけ郷ハートムの初鹿野聡理事長(44)は、地道な地域パトロールの経験から指摘する。

 「住民が主体的に理想の街をイメージし、地域活動を次々起こせる仕組みが必要では」。地域を引っ張るリーダーの掘り起こしや養成が大きな鍵を握る、とみる。

 アカデミーの受講生、会社役員新崎知生さん(41)=広島県府中町=は、小学生二人と幼稚園児の父親。「本音を聞けた貴重な機会。いい刺激になりました」。昨年、若い世代の参加で地元の祭りを復活させた。それに呼応し防犯パトロールも活気づき、手ごたえを感じる。「地域からアイデアを発信しなければ」。そんな意気込みの輪を広げたい。(野田華奈子)

=第1部おわり

2006.11.27