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たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「再生 安心社会」

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第4部 異文化共生

上.暮らす

−相互理解 探る支援策−

  二〇〇五年十一月の木下あいりちゃん事件は、殺人罪などで公判中のペルー国籍のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(35)の処罰に関心が集まる中、外国人とどう共生を図るのか、地域に再考を促す契機にもなった。ショッキングな事件は外国人に対する偏見を増幅させ、ただでさえ弱い彼らの立場をさらに不安定で孤独なものに追いやる可能性がある。事件が起きた広島市安芸区や周辺の現状を追いながら、国際化社会の中でどう共生を果たすべきか、その道筋を探る。

 ごみステーションにポルトガル語の看板がかかる広島県海田町。マツダ関連の自動車部品会社の工場が多く、ブラジル人を中心に外国人約千三百人が暮らす。中でも町東部の畝地区は四分の一が外国人世帯。地区に住む元町職員佐々木正子さん(62)は「外国人との暮らし抜きの生活はもはや考えられない」という。

 来日外国人が急増したのは一九九〇年の入管法改正が契機。政府が日系人に就労制限のない「定住者」の資格を認めたことが引き金になった。

 国際時代へ新たな「開国」。だが、言葉が壁になり、ごみ出しのルールさえ分からない。深夜までパーティーを開く。異文化の暮らしぶりはトラブルを引き起こし、外国人に部屋を貸す不動産業者は街から消えた。

▽祭りなどに招待

 「同じ人間じゃないですか。経済的な事情で異国の地で暮らす人たちを何とか助けたかった」

 佐々木さんはアパート経営者に自ら掛け合って部屋を確保したり、地域住民と協力して日本語教室を開いたりしてきた。

 二〇〇三年、ブラジル人同士の内輪もめから殺人事件が起き、アパート経営者宅への強盗事件も起きた。それでも祭りや交流会に外国人を招待しながら信頼関係を築こうと苦労を重ねてきた。

 しかし、隣町でのあいりちゃん事件。被告の国籍が報道されるたびに「相互理解が進み、偏見もなくなり始めたのに。溝が深まらなければいいが」と胸を痛める。

 日系人の子どもへの教育も模索が続く。町は四小中学校に独自予算でスペイン語、ポルトガル語が堪能な川西進さん(37)を非常勤講師として派遣している。

▽毎年数人が除籍

 一校当たり週一〜四時間。二十二人の外国人が通う海田中の石井秀憲校長(51)は「専門講師を配置しているだけでも恵まれている」と言うが、通常の授業を理解できるレベルまではなかなか上達しない。日本語になじめないなどの理由で不登校になり、毎年数人の中学生が「除籍」になる。

 「高校に進学できるのは一握り。両親の共働きで家に孤立しがち。自暴自棄になり行き場のないメンバーでたむろするようになる」。外国人人材派遣会社に勤めるブラジル人アンデルソン・アラウージョさん(29)は、不安定な生活から犯罪に走る友人を見てきた。が、アラウージョさんは「犯罪に手を染める仲間はほんの一部。外国人だからといって白い目で見られるのは悲しい」と顔を曇らせる。

 警察庁によると、来日外国人による犯罪件数は日本人に比べ特段に多いというデータはない。だが、あいりちゃん事件や全国で盗みをはたらく「爆窃団」事件がクローズアップされるたび「外国人は怖い」との感情は広がる。

 龍谷大の田中宏教授(外国人問題)は「国際化が進む一方で、外国人の生活基盤を支える施策が追いついていない。共生を図るために、相互理解を深める努力が欠かせない」と指摘する。(久保田剛)


多文化共生 国内の外国人登録者数は2005年末で201万人を突破。広島県では3万6617人と1990年と比べ約1万5000人増えた。総務省は06年3月、多文化共生の施策を推進するよう都道府県に通知。具体策として日本語学習の支援や入居差別の解消、不就学の子どもへの対応などが挙げられている。

2007.4.13