The Chugoku Shimbun ONLINE
たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「再生 安心社会」

Index

Next

Back

第5部 明日のために

2.防犯対策

−規範意識 育てる場を−

 下校中に殺された木下あいりちゃん=当時(7)=が通っていた広島市安芸区の矢野西小。保護者は事件後続けていた児童の集団登下校への付き添いを十九日でやめる。

Photo
保護者に見守られながら登校する矢野西小の児童たち。20日からは保護者の組織的な付き添いはなくなる(14日午前7時45分、広島市安芸区)

▽当番制への不満

 事件から一年半余り。PTA会長の川田秀司さん(39)は「共働き世帯も多く、当番制への不満も強かった。負担を軽くせざるを得ない」。試行期間として一カ月間、登下校ルートの二―五カ所に保護者が立つ。「不安はあるが、末永く見守りを続けるにはこれしかない」と言う。

 相次ぐ凶悪事件を教訓に見守りやパトロールは全国に広がった。防犯ボランティア団体は一万九千を超えた。だが、保護者らの「息切れ」は矢野西小だけに限らない。

 「罪を犯す前に踏みとどまる人間を育てるべきだ。治安回復には少年の規範意識が鍵となる」。広島大大学院文学研究科の越智貢教授(応用倫理学)はこう指摘する。

 広島県警と二〇〇五年度、犯罪抑止をテーマに共同研究。青少年の規範意識を向上させ、犯罪を減らす教育プログラムを提唱した。

 「高校生なら善悪をわきまえている。『よい人になれ』と教えても効果は薄い」。将来の自分にマイナスになるから、犯罪や非行をしないという長期的視点に立ったエゴイズム教育を掲げ、懲罰的な指導や家庭訪問といったこれまでの対策に疑問を示す。

 警察庁によると、昨年の刑法犯のうち少年(十四〜二十歳未満)が占める割合は約三割だった。ひったくりや路上強盗などの街頭犯罪に限れば六割にも達する。

 少年対策が将来の犯罪抑止の大きな鍵を握るのは明らかだが、広島県では子どもの非行対策はこれまで学校に、特に生徒指導の担当教員にだけ押し付けられてきた。

 広島県警は非行少年の数を学校ごとにまとめた内部資料を持つ。だが、そうした資料も「成長期の少年への配慮が必要」などとして学校や地域に公開されてこなかった。問題点を積極的に明らかにし、学校同士や地域の連携で克服していく努力をはぐくむ土壌はまだ不十分と言わざるを得ない。

▽「努力を欠いた」

 県警の幹部は「犯罪は警察、生徒指導は学校という勝手な線引きをしてきた。社会のルールをなぜ守るのか、破ればどんなペナルティーが与えられるのか、子どもに教える努力を欠いてきた」と自省の念を込めて話す。

 越智教授らのユニークな研究も会合で数回紹介されただけ。現時点では理論を現実の施策に反映できていない「尻切れとんぼ」のままだ。

 政府の教育再生会議は今月、道徳教育(徳育)を小中学校の「新たな教科」への格上げや充実を提言した。規範意識が低下する子どもに対して、何らかの対応が必要との危機感が表れた結果と言える。

 明確な理念や実効性あるルールをどう確立するのか。地域住民や保護者の連携をどう図るのか。安心社会の再生には、学校や警察、地域が現場に即した具体的な教育システムを真剣に議論する舞台が不可欠になる。(久保田剛)

2007.6.15