「孫育てのとき」

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第2部 対立を越えて

1.実家との距離 −甘えの関係 溝招く

育て方に口挟みたい。でも我慢


地域の子どもサポート

 「仕事も子育ても夫婦でこなす、自立した家庭が目標。でも現実は、実家の協力で成り立っています」。共働きの会社員岩田伸子さん(32)=広島市中区=は、保育園に通う幼児三人のお迎えや夕食を、歩いて二分ほどの所にある実家の両親に頼っている。

 朝は五時起きで家事を済ませ、会社員の夫勝喜さん(31)と一緒に親子五人で歩いて保育園へ。派遣社員を切り回す職場は忙しく、帰宅は毎晩八時ごろ。子どもが急病にでもなれば、実母(56)だけが頼みだ。

    ◇

 来春、長女が小学校に上がる。児童館の学童保育は午後五時までで、家族の迎えが要る。児童館と保育園へのお迎えを掛け持ちする母の負担はさらに増える。「家族五人の生計を考えると、仕事は辞められない」と伸子さん。実母も「子育ては皆で協力すればいい。実家に頼るのも仕方ない」と受け止める。

 「実家依存」が、夫婦間の亀裂につながる場合もある。

 「一体、何を考えているんだか…」。中区の主婦(56)は、嫁(29)を甘やかす実家の態度に腹を据えかねている。

 美容師の嫁と一緒に働こうと、長男(30)は昨年、会社を辞めて美容師に転職した。嫁の実家近くに引っ越し、別々の美容院で多忙な日々を送る。孫(5)の面倒は、嫁の実家任せ。嫁は仕事が終わると実家に直行し、夕食を済ませ、そのまま寝る日が多くなった。

 長男は、嫁の実家で夕食の残りを分けてもらい、妻子のいない自宅で食べる。部屋は散らかり、夫婦げんかが絶えなくなった。正月明けから夫婦間の会話も滞り、別居生活に。「実家が嫁の甘えを許し、夫婦に溝ができたとしか思えない」と、この主婦は嘆く。

 「子どもは親を見て育つ。実家から自立していないと、思春期に悪影響が出かねない」。子育て支援セミナーも主宰する臨床心理士澤田章子さん(51)=中区=は指摘する。不登校気味だった中学生が、母親が実家からの金銭的援助を断ってから立ち直ったケースもあるという。「親の甘えや祖父母が干渉する親子関係を子どもは幼児期から感じ取る。祖父母と親と、お互いがけじめをつける『世代間境界』がとても大切」

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 二〇〇五年版国民生活白書によると、親が子育ての手助けに頼っている相手は、「自分の親」69・9%、「配偶者の親」40・2%の二つが突出する。しかし、親が身近に住んでいる人ばかりではない。子育てを終えた中高年の参加で、地域の育児や介護を支援する会員組織「ファミリー・サポート・センター」など地域ぐるみの相互扶助体制づくりが始まっている。

 子育て支援サークルに夫婦で加わる松本武さん(64)、京子さん(59)=廿日市市=は今月二十二日、廿日市市保健センターの託児ルームで半日過ごした。仲間八人と一緒に乳幼児十七人を預かり、泣く子をあやしたり、絵本の読み聞かせをしたり。「孫の顔が思い浮かぶ」と武さん。

 東広島市に二男夫婦、広島県府中町に長女夫婦がいる。孫は計四人。頻繁に会えば、つい孫の育て方に口を挟みたくなる。我慢し、行き来は誕生日やひな祭りなど祝い事のときぐらいにとどめている。その分、地域の子どもに向ける。早朝、夜間の託児にも応じる。

 京子さんは最近、東広島市に住む二男夫婦に地元で活動している育児支援サークルの一覧表を届けた。「実家依存でなく、上手に地域依存ができれば、親の視野も広がり、孫の成長にもいいはずだから」(藤井智康)


 「孫育て」をめぐり、時として親世代と祖父母世代との確執も見え隠れする。両世代の思い、対立を乗り越える手掛かりを探った。

2006.2.27