「孫育てのとき」

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第5部 地域の力

3.顔なじみ −遊び通じ世代間交流

趣味グループ 子ども向けに教室


街であいさつ 心近づく

 「粘土のつなぎ目に空気が残ると、焼いた時に割れるからね。指で丁寧に伸ばすんよ」。七月下旬、広島市安佐北区口田の口田公民館で開いた「あそびの城」。マグカップやきれいな模様入りの皿を作る子どもたちに、お年寄りが優しく語り掛ける。

 陶芸グループ「炎の会」のメンバーから指導を受け、うなずく子どもたち。真剣な顔つきで粘土を平らに伸ばしたりカップの取っ手を取り付けたり。一時間半後、「できた!」と元気な声が響いた。口田小二年の福田晴香ちゃん(8)=同区口田南=は「おばちゃんと一緒で楽しかった。お父さんの誕生日プレゼントにするんだ」と、葉っぱを写した皿を前に満面の笑みを浮かべた。

 「カップの縁に人形を張り付ける子もいた。発想の柔軟さには驚くばかり。私も楽しませてもらっています」。陶芸歴四年の主婦山口ルリ子さん(63)=同区落合南=は目を細める。

 山口さんの喜びはほかにもある。「教室で教えた子は街で会ってもあいさつしてくれるのよ。私の顔を見て『あ、陶芸のおばちゃんだ』と思い出してくれることも。それがうれしくて」

 「あそびの城」は、地域で子どもを育てる環境づくりを目的に二〇〇四年から、文部科学省と日本レクリエーション協会が各地での開設を促す。口田公民館では「遊びを通じた世代間交流」を目指し、特定非営利活動法人(NPO法人)広島県余暇プランナー協会(山崎勇三理事長)のアドバイスを受けながら翌年に始めた。

    ◇

 地元で高齢者の趣味グループの活動が盛んな点に着目。「子ども向け教室を年に二回程度開いてほしい」と呼び掛け、応じた九グループを中心に年間プログラムを作成。地元の小学校に張り出し、子どもたち向けに着物の着付けや将棋、絵手紙といった教室を開いた。初年度は三十五回の教室に公民館の予想を上回る延べ約七百人の小学生が参加した。

 「こんなに楽しみにしてくれてるなんて」―。子どもたちの参加は、お年寄りたちの喜びとなり、励みとなった。「言うことをちゃんと聞いてくれるんかね」「よう教えん」と尻込みしていたお年寄りたちも後に続き、二年目には十五グループに広がった。

 学校側も期待する。口田東小の川崎由紀校長(54)は「子どもたちはほとんどが核家族。地域のおじいちゃん、おばあちゃんは好奇心を満たしてくれる優しい先生のような存在だ。触れ合いが広がれば『地域ぐるみの孫育て』も夢ではない」

    ◇

 子どもとの触れ合いを機に、地域の子どもたちを見守る活動を始めたお年寄りもいる。「こどもの城」で陶芸を教えている土井正勝さん(75)=同区落合南=は、五年前から地元の保育園でも、幼いころ熱中した遊びを教えている。近所の街角に出て下校する児童を見守るボランティアにも参加。子どもたちからは愛着を込めて「土井のおっちゃん」と呼ばれる。あらゆる触れ合いを通して、「一人一人の子どもが目に留まるようになった」という。

 全国で子どもが犠牲になる凶悪事件が続き、保護者が、わが子の登下校にも不安を募らせる時代。「子どもたちと顔なじみになれば、見過ごしておく気になれない」と土井さん。小さなきっかけで生まれたお年寄りと子どものつながりが、地域を守る太いきずなに育とうとしている。(藤井智康)

2006.8.11