「孫育てのとき」

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第5部 地域の力

5.資源を生かす −知恵絞り思い出づくり

ボランティアの自然体験講座


学生も参加 活動広がる

 「流しそうめん、おかわり!」「カブトムシが捕れたぞ」…。七月二十二、二十三の連日、広島市安佐南区の山あいにある沼田町の奥畑地区に笑い声が響いた。沼田公民館が管内の小学生親子を対象に月一回開く通年の自然体験学習講座「おくはた分校」だ。

 小刀で竹を削って食器を作り、石を積み上げたかまどでカレーを調理。夜は懐中電灯の光を頼りに森に入り、仕掛けたバナナに群がる昆虫を観察する…。盛りだくさんのメニューに子どもたちは大はしゃぎだった。

 先生役は地域住民二十人でつくるボランティア「電ボ隊」が務める。中心は野山で遊び、おもちゃを手作りして育った五十代後半〜七十代。昨年からは近くの市立大や広島修道大の学生十数人も加わった。

 「刃の前に手を置いたらどうなるかな?」。メンバーの有馬義憲さん(62)が小学一年の前原由芽ちゃん(7)の手を取り、小刀の使い方を優しく教えた。「子どもにとって家族で過ごす時間は宝物よ。自然に身に付けた遊び道具作りが役に立つなんてうれしいねえ」。竹のはしや器の完成を喜び合う親子の姿に目を細めた。

    ◇

 同公民館の管内はこの十年で宅地開発が進み、人口二万八千九百五十七人と一・六倍に。核家族が一気に増えた。住宅地の子どもの遊び場は、公園ぐらい。野山で遊んだ経験のない親も多い。「豊かな自然の中で家族の思い出をつくることで、子どもたちに生まれ育った故郷への誇りを持ってほしい」。講座は三年前、そんな狙いでスタートした。管内で、豊かな自然が残る奥畑地区の住民に協力を求めた。

 四月の花見遠足にはじまり、ホタル観察、植え付けた野菜の収穫など、ボランティアが年間スケジュールに知恵を絞る。

 「子どもたちに見せてやりたい」とホタルの舞い飛ぶ里づくりに取り組む大平雪雄さん(61)は「カエルやミミズなど生き物にいっぱい触って、優しい子に育ってほしいんよ」。観察したら逃がしてやってね、と必ずアドバイスする。

 大学生もキャンプファイアーでバンド演奏して子どもと合唱するなど、行事の企画で斬新なアイデアを積極的に提案。参加を呼び掛けた湊朗館長(56)は「中高年の手に余る子どもたちのパワーをうまく受け止めてくれる。無くてはならない存在」と喜ぶ。

 毎月顔を合わせることで気心が知れ、子どもたちは、祖父母や兄姉にするようにメンバーを慕う。家族ぐるみの交流に期待する参加者も少なくない。

 「電ボ隊」に入る親も出てきた。会社員大坂弘二さん(44)は二人の息子と触れ合える週末を充実させたくて、二年前から参加する。まき割り、火おこし…。初めて体験することばかりだったが、教えてもらううちに楽しくなった。

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 「会社と家の往復で、地域に友だちをつくりにくい。ここではみんな気さくだから一緒に活動したくなった」と昨年からスタッフとして支える。小学五年の長男祐貴くん(11)も「家では体験できないことが、お父さんとできるからうれしい」とはにかみながら作業を手伝う。

 恵まれた自然と、大学が多いという特長。地域の資源をうまく生かし、高齢世代と子どもたちの結びつきを強めた。しかも、学生という存在が、年齢が離れた世代のつなぎ役も務める。秋祭りで手作りのみこしを大学生や子どもたちと担いだり、一緒にイベントを開いたり…。「昔のように、地域の温かい見守りの中で子どもたちが育つ街にしたい」と四代目校長の飯田邦人さん(67)は思いをめぐらす。(梨本嘉也)

2006.8.15

連載「孫育てのとき」は今回で終わります。