中国新聞


カード授業で理科嫌い克服
竹原・忠海中 ゲーム感覚で心つかむ


 竹原市の忠海中が、文部科学省の学力向上フロンティア事業指定を受けて本年度まで二年間、生徒の思考力、表現力を高める教育実践に全教科で取り組んできた。その一環として二年生の理科に、ゲーム感覚のカードコレクションを取り入れた授業が、着実な成果を挙げている。「遊び」か「学習」か。微妙なバランスが、生徒たちの心をつかんでいる。

(竹原支局・広田恭祥)


■トレカ参考 教諭が考案

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忠海中が理科の授業で使う「お天気カード」(手前)と「物質カード」

 授業終了のチャイムが鳴ると、生徒が教師の周りに集まる。「先生、気団四天王です」。一人が差し出した名刺大のカード四枚には、冬に日本にやってくるシベリア気団など代表的な四つの気団のイラストと説明文が書かれている。

 理科の渡部光昭教諭(40)は四枚のカードと引き換えに、トランプ遊びのように「役」に応じて点数カードを渡す。五百点分ためると、宿題の一部が免除される仕組みだ。

「役」考えて360点

 特別ルールもある。生徒がオリジナルの役を考えてきてカードの関連性を説明できると、高得点になる。この日、三百六十点の最高得点を獲得した山本公平君(14)が考えてきた役は「夏つながり」。小笠原気団や台風のカード六枚を組み合わせ、授業で習っていない要素も含まれていた。

 渡部教諭が「お天気カード」を取り入れたのは、気象の単元に入る直前の今年一月。教科書の内容から「雨」「気圧」など現象を表す五十種類のカードをパソコンで作り、役は「春うらら」「お天気5色」など二十通りを用意した。

 生徒が、カードを手に入れることができるのは授業中。四〜六人でつくる六つの班ごとに、発表回数や積極性、意見、回答の中身に応じて渡される。ただ、カードの種類は先生任せだ。

 授業のテンポの良さも特徴。まず生徒全員が前回授業の最後に作った一問テストに挑戦し、次にペアを組んで復習し合う。天気図の読み方など新たな知識を学び、その内容を踏まえて次回の一問テストを作る。

 こうした流れは同校で「繰り返し学習」「本時の学習」「思考・表現道場」と名付けて全教科で取り組み、学力アップの実績を挙げている。

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授業の最後に、「お天気カード」を生徒たちに配る渡部教諭(中央)

4年前から研究

 五十分間の理科の授業中、生徒たちは競うように手を挙げ、班内で互いに教え合う姿も見られた。以前なら考えられなかった光景という。

 理科に関心を示さない生徒に興味を持たせる方法はないか―。難題を前に、渡部教諭が授業へのカード導入を本格的に研究し始めたのは四年前。子どもたちが、「トレーディングカード」(トレカ)という対戦型カードの収集や、テレビゲームの攻略に熱中する姿がヒントになった。「面白ければ、自ら学習して身に付ける。授業にも、ゲーム性や遊び感覚を取り入れてみようと思った」

 授業で実際に試したのはその翌年。第一弾は原子記号や化学式を学ぶための「物質カードコレクション」。結果は好評で、本年度も二年生の授業で昨年十月から十二月にかけて使った。

 食材を集めて料理を作るように、先生から受け取った原子記号カード九種類をためて物質を作る。例えば、原子カードの「水素(H)」二枚と「酸素(O)」一枚で、「水(H2O)」の物質カードと交換。こうして二十種類の物質カードを集めていく。希少な「レアカード」や物質名を知らせない「隠れキャラカード」も用意した。

 「物質」「お天気」の両方のカードを体験した生徒の反応はいい。以前は理科に興味がわかなかったと言う山本君は「カードに、はまった。それで授業をしっかり聞くようになったし、やる気も出てきた」と明かす。宿題が減る半面、自ら資料集などを調べるようになったという。

 渡部教諭は「生徒たちが授業に参加してくれること自体が前進だ」と喜ぶ。カード教材が興味の入り口となり、論理的な考え方や、それを表現する力を伸ばす手応えを感じている。

■「入り口」工夫して/徹底的に情報収 ―岩本校長の学校づくり勘所

 生徒の思考力、表現力を高めようと、理科の授業へのカード導入をはじめ、全教科で「思考・表現道場」など先駆的な取り組みを進める忠海中。岩本正則校長(59)に、学校の目標とそれを達成するポイントを列挙してもらった。

 一、「顧客」の生徒、保護者が暮らす地域を知る 教職員、生徒が、地元の祭りや福祉施設の行事に積極的にかかわる。学校行事に住民に参加してもらい、世代を超えた交流を深める。

 一、ニーズをつかむ 生徒、保護者、教職員を対象にアンケートを実施。現状認識や要望を学校経営ビジョンに反映させる。教職員の目標管理は、進ちょく状況の確認や助言をこまめにする。

 一、学校をチームに 企業経営と同じで、組織一丸とならなければ力は出ない。音楽や体育の授業でも文章を書かせるなど全教科で同じ取り組みをすれば、生徒に習慣づけができる。

 一、入り口を工夫 知識詰め込みは駄目。視覚に訴えるイラストなど教材の工夫やゲーム感覚の手法を用い、生徒の動機づけをしっかりとして次に展開する。

 一、情報収集の徹底 先駆的な取り組みをしている学校には県内外問わず視察に行き、データを集める。大学教授らとのつながりをつくり、全国の動きを教えてもらう。

(2005.3.7)


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