中国新聞


発達障害サポート 東広島市三ツ城小
学生目配り やる気促す


 学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)など発達障害の可能性がある児童を支援する取り組みが、学校で始まっている。広島県教委がモデル地区に指定する東広島市の市立三ツ城小(小林正悟校長)では、教員志望の大学生が教室に入り担任をサポートする。児童の個別の支援計画をつくるなど、きめの細かい指導を目指す同小を訪ねた。

(金刺大五)

■学級全体に落ち着き 校内委設置し個別計画

 三ツ城小の低学年のあるクラス。児童三十人が、新一年生を迎える絵を描く図工の授業に取り組んでいた。絵は運動会や水遊びなど、楽しい学校生活を紹介する内容だ。

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授業が終わり、担任教諭と児童の様子などを話し合う境さん(左)

 広島大教育学部三年の境真作さん(22)が、一人の男児に寄り添う。「手はこんな感じに曲げて…」。まりつきの様子を描く男児に、身ぶりを交えて指導する。担任教諭の指示を男児の顔を見ながら復唱したり、机にうなだれていると姿勢を正したり。男児が絵に集中している時は、その場を離れ、他の児童にも気を配る。

 この男児は、算数や本を読むのが好きという。学校は「知的な遅れはあまりみられない」とみる。ただ、授業中に落ち着きを失う時がある。とりわけ図工は苦手で、この時も何度か席を離れた。そのたびに境さんが歩み寄って「どこに行くん」と呼び戻した。

▽5クラスに11人

 同小は、県教委の地区指定前の二〇〇二年度から広島大大学院の落合俊郎教授(障害児教育)と連携。具体的に障害の診断がなくても、保護者からの要請に応じて特定のクラスに学生ボランティアが付く。本年度は十一人を五クラスに配置した。一人当たり週一、二回程度、同小に通う。

 「児童のやる気を引き出すよう心掛けている」と境さん。フォローする男児の母親とも会い、要望を聞く。サポートを受ける担任教諭も「全体に目が届き、クラスの雰囲気も落ち着きが出てきた」とペア効果を実感している。「一人の児童の成長を促す特別な指導ではない。クラス全体が他者への思いやりを自然にはぐくみ、成長してくれたら」と望む。

 文部科学省は〇四年一月、軽度の発達障害の子どもへのケアを展開する「特別支援教育」のガイドラインを公表。〇七年度までにすべての小、中学校での支援体制の構築を目指す、としている。

 その中心的役割を担うのが「校内委員会」。三ツ城小は校内外の調整役を務める特別支援教育コーディネーターの嵜本昇誠教諭(41)や学年主任らで校内委を組織。月二回程度、個別の指導計画などを話し合う。嵜本教諭は「個人ではなく全体の共通理解とすることで、教員の意識も高まる」と強調する。

▽県内の6割設置

 県教委は、合併前の東広島市と旧黒瀬町をモデル地区に指定した。このエリアではすべての小、中学校が校内委を設置済み。県内全体では、三月末までに公立小、中学校の64・0%に当たる五百五十七校が校内委を設置する見込みだ。県教委はコーディネーターの養成研修や専門家の巡回相談などを実施する。

 三ツ城小の担任教諭は「分かりやすく、児童の関心を引きつける授業を一層心掛けるようになった」と自らの変化を明かす。

 ただ、近隣の広島大とタイアップできる三ツ城小のような環境にあるケースは、まれである。特別支援教育は、障害児教育担当者に任されがちだった分野に多くの教員が目を向け、指導力を高めていく一歩であり、教育現場の多くはまだ、手探りの状況にある。


発達障害 特定分野の学習に困難を伴う学習障害▽集中できず、じっとできない行動、言動のみられる注意欠陥多動性障害▽対人関係に障害などがある自閉症―などがある。2002年の文部科学省の調査は小、中学校に在籍する軽度発達障害の児童・生徒の割合は全体の約6%と推計。4月施行の発達障害者支援法は、障害の早期発見や支援体制の整備を国や自治体に促している。

■地域へ広がり期待 広島大大学院 落合俊郎教授に聞く

 特別支援教育の意義や課題について、広島大大学院の落合俊郎教授(52)に聞いた。

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「特別支援教育は、共生社会を築く出発点」と語る落合教授

▽専門機関と連携 教員の負担軽減

 ―特別支援教育とはどんなものですか。

 これまでの障害児教育は、盲・ろう・養護学校や障害児学級などで手厚く専門的に行う、という形だった。特別支援教育は、通常学級にも軽度の発達障害児がいる、という認識に立つ。工夫を凝らした授業で、特定の子どもだけでなく、学級全体の基礎学力の向上を図り、お互いが支え合う共生社会を目指す教育といえる。

 ―推進する意義は。

 これまでは、学級に障害がある子どもがいるのに「いない」とされ、問題が起きても本人や担任の責任とされた。注意ばかり受けたり、逆に放っておかれたりすると、不登校や、いじめの対象になるケースもある。

 ―発達障害のある子どもに、教員はどう接するべきでしょうか。

 子どもにもよるが、発達が遅れている点と、優れている点があるという認識が必要。「困った子」「なまけている子」とみられがちだが、良き理解者、支援者がいれば、能力は伸びる。

 ―教員の負担が大きくなるのでは。

 個人で動いて責任を一人で背負い込まず、他の教員らと連携しシステマチックに動くべきだ。校内委員会や校外の専門機関と連携し、より良い対策を見つけることで、全体として教員の負担は軽くなる。現状では、発達障害児を担当する教員のストレスが見過ごされている面もある。自信を喪失したり、自尊心を傷つけられたりするケースもあり、フォローが必要だ。

 ―三ツ城小と連携したきっかけと目的は。

 小学校教員に採用された教え子がクラスをまとめられず、一学期で教員を辞めてしまうことがあった。短期の教育実習では、現場の厳しさは分かりにくい。年間を通じ、生きた学級の姿を学生は見ることができる。

 ―そうしたボランティアは今後、広がりますか。

 教員や保育士など子どもにかかわる職を志望する若者は多い。社会人や地域のお年寄りも含め、ぜひ学校に入ってほしい。学校側の準備やプライバシー保護の問題など課題はあるが、助け合いの精神が特別支援教育の鍵といえる。広がりを期待したい。

(2005.3.21)


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