中国新聞


大地にもまれ 子ども成長
佐賀県鳥栖の市村自然塾


 年十八回の週末合宿と農業体験で子どもの自立を促す「市村自然塾九州」が佐賀県鳥栖市に開塾して三年目。「生きる力を大地から学ぶ」をモットーに、農園管理などで自主性を引き出す取り組みが、教育関係者たちの注目を集めている。田植えを控えた十一日、体験入塾の門をたたいた。

(馬場洋太)

隔週末に共同生活・農業体験 責任感・自主性のぞく

田植え前の田んぼでそりを引く「潟スキー」に興じる子どもたち。後ろにある薄茶色の建物が塾の宿舎
「スイカのつるは、やわらかーく引っ張って。赤ちゃんを扱うように」。河内塾頭(右端)の指導に熱がこもる

 JR鳥栖駅から、車で二十分。谷沿いの小さな集落に塾はあった。この日は、代かきを兼ねて田んぼの中でそりを引く「潟スキー」や騎馬戦を楽しむ「ガタリンピック」の日。「ムツゴロウになった気分」。子どもたちは顔までどろんこになり、息を弾ませた。

 塾生は、山口県や九州から公募で集まった小学四年―中学二年の男女各三十人。三〜十二月までの隔週、金曜の夕方から日曜の昼すぎまでの二泊三日を六人一組、五チームで共同生活を送る。

 塾の特色の一つが、植える品目や管理を各チームに任せる「チーム農園」。この日も、スイカの苗が枯れていたり、中国野菜の芽が出ていなかったりと異変続き。「あーあ、枯らしちゃった」「肥料不足かなあ」。子どもたちの言葉の端々に責任感がのぞいた。

 宿舎での夕食。ご飯が焦げ臭い。担当の六人が火加減を誤ったという。六人は全員の前で頭を下げ、ばつが悪そうにお焦げを自分たちの茶わんによそった。スタッフは焦げを察知したが、あえて失敗させた。「悔しがる過程で、知恵とこつを身につけさせる」と聞き、納得する。

地図「市村自然塾九州」

 体験は、日常生活にも生きているようだ。「田舎のおばあちゃんとの話題ができた」「理科で百点が取れた」。子どもたちは得意げに話す。以前は授業中に挙手できなかったという田所美晴さん(10)=福岡県久留米市=は「チーム農園の話し合いでは意見を言わないとまとまらないから、自然に話せるようになった」と笑顔を見せる。

 河内利大塾頭(63)は「半年たつと子どもたちは素直になる。農作業で自分の無力さや生かされている自分を知るからではないか」とみる。

 中国地方での開設の予定はないが、河内さんは「地域の親を中心に、空き家や減反の田んぼを使えばどこでもできる。ぜひ見学に来て参考にしてほしい」と話していた。


市村自然塾九州 コカ・コーラウエストジャパン(福岡市)を中心に設立した特定非営利活動法人(NPO法人)の宿泊型体験施設。同社初代社長でリコー創業者でもある故市村清氏にちなんだ。同塾関東(神奈川県)に次いで2003年3月に開設。年間約6000万円の運営費は、110の企業や個人会費で賄う。TEL0942(82)5211。

(2005.6.15)


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