中国新聞


こころの援助 レシピ本に
広島の岡田医師 青少年と向き合い30年


 料理にたとえコース別解説

 傷ついた青少年の心に向き合い続ける広島市こども療育センター・心療部長の岡田隆介医師(57)。子どもと家族に、どう接し、支援するか、三十年にわたる臨床経験の奥義を料理の手順になぞらえて解説した「こころの援助レシピ」を出版した。

(西村文)

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「カウンセリングに携わる人をはじめ、子育てに悩む親や先生にも読んでほしい」と話す岡田医師

 引きこもり、不登校、虐待など相談の多い事例を想定に、面接相手の心をほぐす口調から、相づちや突っ込みの間合いなどバリエーションを詳細に公開した。「奥の手まですべて見せ、丸裸になった気分」と岡田さん。

 実際は深刻な面接室でのやりとりを調理法に例えた。「シェフ岡田」のお得意コースは三つ。「先生に目の敵にされる」と怒る子に「そうか。周りの子は、君のおかげでしかられずに済むと頼りにしてるんだね」と投げ返すなど、思い込みや別の見方に気付かせる「創作料理コース」、対話の中で家族間のコミュニケーション技術を鍛え込む「スタミナ料理コース」、来談者の語りという素材を生かし、気付きや発見を重ねていく「自然食コース」だ。

 初めて来談に訪れた親子の心を開く会話の「下ごしらえ」、家族が問題の根と思い込んでいる夫婦の不仲などの仮説をどこまで受け入れるかの「火加減」…。軽快な文章には、「こんな仕事をしてみたい、と臨床心理やカウンセリングの門をたたく若者を増やしたい」との期待がこもる。手の内を明かし、「患者とフェアな立場になりたい」との思いもあった。

 子どもの心の問題は、原因をほじくるよりも、どうすれば自立に向かうか、前を向くべきだというのが信条。「子どもの一生を長い目で見て、今、何をすればいいのかを考えてほしい」と、心の成長過程にも解説のページを割いた。

 研修医時代、ボランティアで知的障害者施設の嘱託医を務めた縁で、青少年の心の世界に踏み入った。少年犯罪の増加で脚光を浴びる分野だが、「三十年前は、すき間産業だった」と振り返る。

 先頭を走ってきた自負とともに、「青少年問題にも精神科医が必要とされるほど、社会がどんどん悪くなっている」との危機感も抱く。定年まであと三年。「専門家はまだまだ足りない。第二の人生は、後進の育成に力を尽くしたい」

 二百十六ページ。二千百円。金剛出版Tel03(3815)6661。

(2005.10.4)


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