中国新聞


教育 子どもへの目線大事に


 【社説】教育の原点は、子どもの生きる力や考える力を育てることにある。教育行政や学校現場の教職員が今、子どもの目線に立った本来の目標を、十分に実践できているのだろうか。

 特に広島県では一九九八年、旧文部省から県教委、福山市教委が「是正指導」を受け、指導方法が大きく変わった。今年五月で八年になる。

 指導以降、「校長権限の確立」や「信頼される学校運営」などを進める県教委に対し、過度の管理を感じる教職員との溝は深いままにみえる。両者のあつれきの間で「子ども不在」にならないか、気がかりだ。

 是正指導は、教育内容や学校の運営管理にわたる十三項目だった。県教委は「学習指導要領や法令などに触れる恐れのある実態があった」と説明する。例えば、校長に決定権がない、授業時間が少なく学力も十分つかない、学校の運営が閉鎖的だった―などと言う。

 取り組みを受け、「国旗・国歌」の実践率は100%になり、基礎学力もついてきた、と県教委はみる。榎田好一教育次長は「県の教育は変わってきたが、中立、公開の姿勢はこれからも必要」と分析する。

 しかし、教職員の見方は違う。授業計画や各種報告の文書づくりに追われ、勤務は遅くなり家庭訪問もできにくい。公開授業は増えたが開くのが目的になりがちで、授業後の研究協議は参加が減る―。是正後、教員は自分の授業時間の確保で精いっぱいに陥っている状況も浮かぶ。

 県教組の山今彰委員長は「集権化や管理、締めつけが強まり、ゆとりがない。教員が自分の判断で実践できなくなっている」と強調する。

 もし、教員がやる気や充実感をなくし、子どもに向き合う関係が薄れているとしたら深刻だ。

 広島県の教員には精神疾患が多い。中国地方でも突出する。県教委も認める実情だ。県教組の指摘する「徹底管理」が反映された数字なら改善は現場の大きな課題である。

 県教委は改革の一環で二〇〇二年度から小五、中二の全員を対象に「基礎・基本定着状況調査」(学力テスト)を続けている。学力の達成度を把握、分析し、教科の課題を見つけて改善計画につなげる狙いだ。

 ただ、自治体によっては平均点一覧をつくって成績を比べたり、過去の出題を事前勉強させる教委があるなど、「点数競争」の一面ものぞく。学校や市町間の優劣が意識され過ぎては本来の目的が損なわれる。序列化にならない運用が重要だ。

 国の教育行政も揺れや性急さが目立つ。義務教育では「ゆとり教育」の柱だった総合的学習の見直しや全国学力テストの導入も検討される。

 だが、総合学習も詰め込みの反省から、自分で考え、解決する力を育てる狙いだった。小中で四年、高校で三年しかたっていない。見直しは国際学力調査の日本低位を受け、前文科相が口火を切った。十分精査したのか。子どもにどんな力をつけるのか。教育の本質を抜きに、競争や学力偏重に戻っては意味がない。

 教育基本法に「愛国心」を盛り込もうとする風潮なども含め、教育改変にはもっと国民の議論が要ろう。

 広島県では是正指導後、校長や教育関係者三人の自死という犠牲の上に教育改革が進む。「子どもに向けた目線」。この問いかけを絶えず教育現場に返して考える必要がある。

(2006.1.11)


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