中国新聞


人口減少社会 希望持てる育児支援を


 【社説】今年の新成人が総人口に占める割合は1・12%。一九六六年の丙午(ひのえうま)生まれが成人した八七年と同じで過去最低だ。大学入試センター試験の志願者は三年連続で減少した。年明けから「人口減少社会」が実感として迫ってくる。

 ついに日本は人口が減少に転じるという歴史的転換点を迎えた。しかも子どもが減り、高齢者が増えるというアンバランスな年齢構成である。そんな社会が長期にわたって緩やかに続いていく。

 政治や経済、社会保障などあらゆる分野が影響を受ける人口減。要となる「少子化対策」がより重要性を増してくる。希望を持って子育てできる社会をつくることは行政、地域、企業の責務である。

 これまでもさまざまな取り組みがなされてきた。にもかかわらず、少子化が止まらないのは、「改革」を叫ぶ小泉純一郎首相の頭の中に「少子化対策」は重要な位置を占めていなかったのではないか。二〇〇三年度の十五歳未満の社会保障給付費は一人年間約十七万円しかない。

 子どもを持つ、持たないは本来、プライベートな問題である。だが、「経済的な理由」や「社会不安」を挙げ、理想の数だけ子どもを持たない夫婦も多い。政府はこうした意見を正面から受け止め、従来の施策を根本的に見直すべきである。小泉首相にはリーダーシップを発揮し、実効性ある手だてを求めたい。

 地方自治体の役割も重要だ。人口が都市部に集中する中、二十―三十歳代の子育て世代を呼び込むには、魅力的な地域づくりが欠かせない。中国地方五県も新年度の予算編成に「人口減の抑止」を大きな柱に位置付けている。

 注目したいのは、出生率が全国平均を大きく上回ったり、上昇したりしている自治体だ。沖縄、鹿児島両県の離島では、農業の専門家育成機関など若者の就労策に知恵を絞っている。働きながらでも地域で子どもを見てもらえる安心感もある。地域事情は違うだろうが、参考にできる点は学びたい。

 都市部でも工夫はできそうだ。東京都二十三区内で最も出生率が高い江戸川区では、育児経験者らが保育所と同じように乳児の保育サービスを行う「保育ママ」事業を続けている。子どもを犯罪被害から守ろうという機運が各地で高まっている今、そうしたネットワークが育児支援へと広がるといい。

 企業にとっては、仕事と子育ての両立を支援するための「次世代育成支援対策推進法(次世代法)」を本格的に実施する年になる。昨年四月に全面施行された同法は企業に「育児休業取得の推進」「短時間勤務制度」など具体的な行動計画の策定を義務付けている。

 ただ、同法には罰則がなく、経営が厳しい企業では実行は難しいとの指摘もある。従業員三百人以下の企業は「努力義務」というのも気になる。多くの女性は中小企業で働いているからだ。行政の強力な指導力が問われる。

 〇七年からは団塊世代が大量退職する。一方、若者や女性は、パートやアルバイトなど不安定な雇用が多い。労働力不足に危機感を持つなら、正規雇用を増やして安定した家庭生活を送れるようバックアップすることも必要だ。

(2006.1.12)


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