中国新聞


体と心寄り添う「抱っこ法」
広島で60人参加し講演会


 ■駄々こねる訳考えて

 駄々をこね、泣きわめく子にイライラ―。そんな育児ストレスを、わが子の体と心に寄り添って乗り越える「抱っこ法」が母親の心をとらえている。「抱っこ法」講演会が一月末、広島市安佐北区内であり、中国地方から約六十人の親や保育士を目指す学生などが集まった。(西村文)

子どもが駄々をこねると、イライラするのはなぜか―。抱っこ法のワークで自らの心を見つめる受講者たち

 この日の講師は、「日本抱っこ法協会」(本部・東京都調布市)の認定援助者、七野友子さん(43)=大阪市。講演の前に、スタッフが親子に扮(ふん)し、子育ての一場面を演じてみせる。

 (夕食の支度に忙しい母親。そこに子どもがまとわりつく)

 「お母さん、チョコが欲しいよお」

 「ダメ、ダメ。もうすぐ夕食だから我慢しなさい」

 「欲しい、欲しい!」

 「もう、まったく。少しだけよ」

 (チョコを渡す。すると今度は…)

 「お母さん、ジュースが欲しいよー」

 「ダメって言ったでしょ!」

 わが家そっくりのやりとりなのか、苦笑する参加者たち。すかさず、七野さんが問い掛ける。「お菓子が欲しいのではなく、お母さんに放っておかれて寂しいのでは? 見せかけの行動の裏に隠れた本当の気持ちを考えてみましょう」

すすり泣きの声

 駄々をこねる子どもを前にすると冷静になれず、イライラしてしまうのはなぜか―。受講者は二人一組になり、深層心理を探るワークに取り組んだ。「子育て頑張ってるね」「よくやってるよ」と七野さんが言葉を掛ける中、相手の背に手を当てる。数分後、静まり返った会場に、すすり泣きの声が漏れ始めた。

 「私は親から否定的なことばかり言われて育ちました。子どもが駄々をこねると、自分の子ども時代の苦しい感情がよみがえるんです…」。声を詰まらせ、発言する母親も。手のぬくもりと言葉掛けで、受講者同士、お互いが癒やされる時間を味わった。

 「わが子の駄々こねに感情的になってしまう背景には、親自身が子どものころに心にカギを掛けたままの感情が残っている」と七野さん。「抱っこ」には、子どもへの慰めと同時に、親自身の感情をほぐす効果もあるのだという。

基本はシンプル

 抱っこ法の基本はシンプルだ。(1)子どもを抱きしめ(2)おおらかな気持ちで(3)子どもの気持ちに共感する。これで冒頭の場面を演じ直すと、次のようになる。

 「お母さん、チョコが欲しいよー」

 (「一人で寂しかったのね」と思いつつ、子どもを抱っこして)「チョコが欲しいのね。おなかすいたよね。もうすぐ夕食だから、それまで待ってほしいなあ」

 七野さんは幼稚園で障害児教育に携わる中、「抱っこ法」と出会った。十年前からは、広島市西区の助産院で月一回、親子カウンセリングを重ねてきた。「子どもは泣いて、親に甘えて育つ、昔ながらの子育て風景を抱っこ法を通じてよみがえらせたい」

 講演会は、特定非営利活動法人(NPO法人)「子どもネットワーク可部」(安佐北区)が主催した。同法人Tel082(815)1530。


抱っこ法 約40年前、米国で自閉症児の心理療法として誕生。日本には約20年前に紹介され、親の心も癒やす方法として独自の形で発展。2年前、保育士が主人公のNHK連続テレビ小説「天花」で注目された。

(2006.2.6)


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