中国新聞


幼保一元化前にモデル事業
就労問わず受け入れ


 ■幼児交流の幅広がる

 幼稚園と保育所の機能を一体化した総合施設「認定こども園」の制度が十月から始まる。国は二〇〇五年、モデル施設として全国三十五カ所を指定。中国地方では三カ所がモデル事業に参加し、いち早く「幼保一元化」に取り組んでいる。(森田裕美)

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「だいいち子どもの国」の園児と隣接する保育所の園児とが交流する給食時間

 「園長先生、さようなら」。モデル施設の一つ、岡山市の「だいいち子どもの国」。午後二時を回ると、園児が保護者に手を引かれ、帰り始める。別の部屋では、午後五時までの「長時間保育」の園児が寝息を立てている。

 二女(5)と三女(2)を迎えに来た主婦新田有美さん(35)は「親が主婦だと保育所には入れないし、幼稚園だと三、四歳からしか通えない。ここなら二歳からいろんな子どもたちと触れ合える」と話す。

時間2パターン

図「幼保一元化の流れ」

 「子どもの国」には現在、二歳から就学前までの幼児八十人が通う。保育時間は、午前八時から午後五時まで(延長は六時まで)の「長時間保育」か、午前九時半から午後二時までの「短時間保育」のどちらか。ゼロ歳―就学前の子の一時預かりもしている。

 もともと保育所を営む財団法人が「共働きかどうかなど家庭状況に関係なく、保育や子育て支援ができる場を」と一九九五年、幼保一元化を先取りする格好で開いた幼児教室。職員十五人の半数以上が保育士や幼稚園教諭、小学校教諭の資格を持ち、英語や絵画、楽器演奏などを教える。隣接の保育所と給食や行事も共にする。

 共働き家庭の増加や少子化で、幼稚園児の数はここ十年間に全国で約十万人減少した。一方で、保育所の入所を待っている待機児童の数は全国で約二万三千人(〇五年四月)もいる。就学前の子どもをすべて引き受ける「認定こども園」は、二つの問題を一挙に片付けながら補助金の節約にもつながる、国の切り札ともいえる政策だ。

 広島市東区の「広島光明学園」。九階建てのビルに社会福祉法人が運営する保育所と高齢者福祉施設とが同居する。ゼロ歳児―就学前の乳幼児三百七十人が通う保育所に〇五年度、幼稚園部を創設し、三歳―就学前の幼児五十人が加わった。

 名目上、幼稚園部はあってもクラスは別につくらず、園児みんな一緒に活動し、英語や中国語も習う。同学園の碓井智紗子園長は「高齢者もいるので、日常的に世代間交流できるのもいいところ」と話す。

料金値上げ懸念

 松江市では経営母体の違う「育英北幼稚園」と「たまち保育園育英北分園」とがモデル指定を受け、一元化の在り方を模索している。

 文部科学省によると、数年前から自治体などが「幼保一元化」に向け、独自の取り組みを始めた。幼稚園の空き教室を使う保育所など「幼保連携」施設が全国に三百三十カ所あるほか、預かり保育をしている幼稚園も多く、同省は「認定こども園になり得る施設は、潜在的に千カ所くらいある」と見込んでいる。

 課題もある。管轄は幼稚園が文科省、保育園は厚労省。認定子ども園についてはどの部署が担当するのか、多くの都道府県で決まっていないのが現状だ。

 幼保一元化による人件費増などに伴い、利用料の値上げも予想される。梅光学園大子ども学部(下関市)の杉山直子講師(教育方法学)は「経営優先になると保育の質が低下し、子どもが置き去りになりがち。子どもの発達を最優先に考えた施設運営が求められる」と指摘している。


幼保一元化 就学前の子どもを教育する幼稚園と、共働き家庭などの子どもを預かる保育所の機能を持たせる制度。幼稚園が経営難に悩む一方、保育所の入所を待つ子どもが多い現状を改善する狙いで政府が2003年に打ち出した。

(2006.7.3)


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