中国新聞


小児科存続の危機
柳井の総合病院


 ■開業医との連携強化を −総合力で広域医療維持

 小児科の入院施設を持つ柳井市の県厚生農協連周東総合病院が、小児科存続の危機に直面している。山口大医学部(宇部市)が来春から、医師不足のため同病院への小児科医師の派遣を打ち切る方針を固めたからだ。このままでは入院への対応はできなくなる。病院は地元の医師会、行政の協力を求め、夜間休日診療所の開設に向けて検討を始めた。開業医との連携を図るこの機会を、総合力で地域の医療水準を維持するネットワークづくりにつなげてほしい。(持田謙二)

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山口大が医師派遣の打ち切り方針を固め、存続にむけて行政や開業医を含めた模索が始まった周東総合病院の小児科
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 「子どもは夜中に熱を出すことが多い。休日、夜間診療、入院に対応してもらえるのは大きな安心。小児科を存続してほしい」。二歳の長女がいる柳井市柳井、主婦山中裕美さん(26)は訴える。

 大島大橋を渡った柳井市の隣、山口県周防大島町ではより深刻だ。町内に小児科の専門医師はおらず、三カ所の公立病院で比較的病状の軽い場合は対応するが、入院はできない。

隣町住民にも深刻

 町の東端から周東総合病院には車で約一時間。小児科がなくなると、入院できる病院は岩国市内か周南市内となる。

 生後十カ月の長女がアレルギー治療を受ける周防大島町小松開作、主婦木村智子さん(35)は「緊急時に備え、軽い症状でもカルテが残るよう国立病院機構岩国医療センターでの受診がいいのだろうか」と戸惑う。

 小児科医を三十年間、派遣する山口大医学部が、打ち切り方針を固めたのは五月。大学の医局で小児科医師の確保が困難になったためだ。現在は九人が所属。八年前に比べて六人減った。付属病院小児科は三十九床あり、その対応だけでも大変、という。

 小児科長の古川漸教授は「派遣は続けたいが、とても無理」と理解を求める。

 現在、周東総合病院に派遣している小児科医師は二人。うち一人は来春、体調を壊した父親を継いで開業する。残る一人では夜間救急の対応はできない。

1市4町を支える

 病院は、一市四町の柳井圏域の人口約九万人を支える。小児科への休日や夜間外来は月二百四十人前後で、うち二十人前後が入院している。二〇〇五年度の小児科の入院患者数は五百二十七人。地域別では柳井市二百五人、田布施町百十一人、平生町八十四人、周防大島町五十人などだった。

 県内八カ所の保健医療圏のうち、入院できる小児科が存廃の危機にあるのは柳井圏だけ。病院側は全国的に不足する小児科医師の確保は難しいとみて、圏域の三医師会と三市町に協力を要請。八月下旬、夜間休日診療所の開設を目指す作業部会を発足させた。

 病院側の示した案は、診療所を病院の健診センターに開設し、平日の午後七時から十時まで、開業している外科か内科の医師一人が駐在。入院が必要な患者は病院の当直医が対応する。各医師会の合意が得られれば、年内に始めたい考えだ。

 診療所の態勢づくりができれば、病院勤務の医師の負担が減り、ひいては小児科医師も公募しやすくなる、との狙いである。病院の守田知明院長は「住民の安心のため、小児科を存続させたい」と力を込める。

 さらに、病院側には、この話し合いは医療を地域で支える仕組みづくりとの認識もある。開業医と総合病院が連携を深め、行政が側面的に支援する。小児科にとどまらず、産婦人科など他の診療科目で危機に直面した際も機能するよう、この経験を発展させて将来の地域医療をもにらみたい。

(2006.9.1)


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