中国新聞


小学校の校内暴力 子のSOSが聞こえる


【社説】 児童にそんなにストレスがたまっているのかと思う。全国の公立小で昨年起きた校内暴力は、文部科学省のまとめで二千十八件に上る。三年続けての増加だ。子どもからの「SOSのサイン」とみて対策を考えたい。

 とりわけ教師への暴力が増えている。注意したのに腹を立ててけり返すなど四百六十四件が報告され、前年より百件以上増えた。ほかに言葉の暴力もあろう。

 根にあるのはストレスだ。安心できる居場所があれば子どもにそうストレスはたまらない。「あなたはそこにいてもいい」というメッセージが聞こえ「受け入れられ感」が得られるからだ。

 ところが現実には家庭が必ずしもそうした場になっていない。児童相談所による虐待受理が三万四千件(昨年度)という数字がそれを物語る。「いてもいなくてもいい」「いない方がいい」というメッセージを感じた子どもはたまらない。学校も居場所でないと思ったら、ストレスのマグマは何かの拍子に教師やほかの子に一挙に噴き出しても不思議ではない。

 さらに親が、責任を人に押し付け、家でも教師の悪口を言うようなタイプならば、ますますその行動を助長しかねない。

 緊急対策としては、文科省がいうように「悪いことは悪いと毅然(きぜん)と対応する」姿勢を見せることが必要だろう。でも相手はまだ小学生。抑えつけるような「指導」ではなく、心の屈折を受け止めながらともに考える手法を考えたい。担任一人が抱え込まずにチームを組んだり、広島市教委が試みているように教員OBをスクールサポート指導員として活用したりするなど知恵は出るはずだ。

 予防策は「こらえ性」を育てること。怒りを相手にもろにぶつけず、感情をコントロールするさまざまなコミュニケーション手法が開発されている。核家族と少子化の中で学べなかった「コツ」を伝えることは効果があろう。

 家庭が子どもの居場所にならない理由を探ると、親の精神的、時間的なゆとりのなさや未熟さ、経済的な貧しさにも突き当たる。これは「格差社会」の風景だ。

 とすれば本質的な解決の道は、子育て中の親が経済的なゆとりを保証され、地域に包み込まれるような社会の実現だろう。次の総理が確実な安倍晋三官房長官は「教育の再生」を主張するが、抽象的な理念を掲げるよりも見据えるべきはこうした足元ではないか。

(2006.9.15)


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