中国新聞


広島市の障害児施設料金
市外から通所 負担大


 ■格差最大17倍軽減策の対象外

表「広島市の障害児施設の負担格差」

 障害児施設の利用料を原則一割負担とする障害者自立支援法が今月から本格施行され、広島市内では同じ施設に通所していても、児童の住所が市内か市外かで負担料に大幅な開きが生じていることが五日、分かった。独自の負担軽減策の有無によって生じた制度上の「格差」で、市外から通う場合は最大十七倍、月額で二万円以上に及んでいる。(滝川裕樹)

 同法の本格施行に伴い、児童福祉法も改正。障害児施設の利用料は保護者の所得に応じた負担から、サービス利用料の一割と給食費を負担する仕組みに変わった。

 施設ごとにサービスの利用料は異なる。例えば、広島市のある知的障害児通所施設へ月二十日通うと試算した場合、九月まで月千百円を払っていた低所得の世帯は、十月から月二万千二百円と大幅な増加になる。市民税の非課税世帯は、無料だったのが月七千五百円になる。

 市は、利用者の負担増が大きすぎると判断し、三年間の期限で独自の軽減策を設けた。同施設を例にとると、利用料が月千百円のケースは百五十円の値上げに抑え、非課税世帯は従来通り無料とする。ただ、対象が市民だけのため、市外から通う利用者との間で大幅な格差を生んでいる。

 中国地方では広島市のほか、廿日市、福山、尾道、鳥取、米子の各市、広島県府中町も独自の軽減策を導入している。都道府県単位では京都府などが独自策を設けているが、広島県をはじめ中国地方五県での導入はない。

 ■「どこが自立支援」 保護者の不公平感加速

 障害者自立支援法の本格施行で、負担が増大する県内の障害児の保護者たちに戸惑いが広がっている。自治体の取り組みの違いで結果的に生じる「格差」も、不公平感を加速させる。「どこが自立支援なのか」。保護者から憤りの声も聞こえてくる=34面関連。(滝川裕樹)

 坂町の賃貸住宅。五歳の長女が広島市東区の肢体不自由児施設に通う女性(33)は、市が試算した施設利用料の資料を前に、ため息をついた。

 これまで利用料は月千百円の定額だったが、今月からは通園日数に応じた金額を求められるようになった。

 月に二十日通った場合は、八倍以上の九千二百八十円になる。年間では約十万円の負担増だ。一方、同じ所得でも広島市民なら、市が独自の負担軽減策を設けたため、利用料はほとんど変わらない。

 夫の収入は手取りで月約十四万円。長女は睡眠中に無呼吸発作が起きる恐れがあるため目が離せない。保育所に子どもを預ける共働き世帯のように、外へ働きに出られないのが実情だ。

 家族は四月まで広島市西区に住んでいた。昨年四月、障害がより重かった双子の妹(当時四歳)が亡くなったのを機に、姉妹が一緒に通所していた東区の施設から、佐伯区の施設に移るよう市から求められたという。しかし、顔なじみが多い東区の施設に通い続けるため、坂町に引っ越したのが結果的に裏目に出た。

 「医師から出産時に『長く生きられないだろう。寝たきりになるかもしれない』と言われたのに、施設に通ったおかげでここまで成長できた。親の事情で通園を控えるようになれば、本当に申し訳ない」。女性は声を落とす。

 府中町の保育士宗田亜紀さん(32)は、長女奈月ちゃん(4)が東区の知的障害児施設に通っている。利用料は九千三百円から二万八千九百四十円になる計算だ。「子どもの伸びる可能性が、保護者の経済力で左右されていいのか」。宗田さんらの訴えに対し、同町は九月末に急きょ、軽減策導入を決めた。町は「同じ施設で格差が生じるのはよくない」と説明する。

 これに対し、県は「(利用料は)おおむね無理のない範囲で設定されている。極端な場合については国に軽減を要望するが、県単独の措置は考えていない」と否定的だ。中国地方の他県も「軽減は国が行うべきだ」などとしている。

 保護者でつくる「広島の障害児療育・教育を充実させる会」の川尻七美会長は「どこが無理のない範囲なのか。広島市から助成を受けても負担が倍増する世帯は多い。親たちの声を聞いてほしい」と訴えている。

(2006.10.6)


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