中国新聞


代理出産 普遍的なルールが要る


【社説】 「生みの母」を戸籍上の母とする考え方を日本はとってきた。しかしそれでは律しきれない事態が生まれている。タレントの向井亜紀さん夫妻が代理出産で授かった双子の親子関係の検討は、再び司法に委ねられた。家族の在り方を議論したうえで、「最大公約数」のルールを導き出したい。

 がんで子宮を摘出した向井さんは米国人女性に代理出産を依頼し、二〇〇三年に双子の男児が生まれた。出生地の米ネバダ州は夫妻の子と認めたが、東京都品川区が出生届を受理しなかったため、夫妻が異議を申し立てていた。

 東京高裁は九月末、親子関係を認めた。双子は法的に親がいないから心情的には支持したい。ただ今回は個別の判断にすぎず、ルールを作ったことにはならない。

 代理出産は体外受精で作った夫婦の受精卵を別の女性の子宮で育てる「借り腹」と、卵子も第三者から提供してもらう「代理母」の二通りがある。向井さん夫妻は前者にあたる。

 厚生労働省の審議会は〇三年、代理出産を禁止する報告書をまとめた。理由に(1)子の福祉の優先(2)人を専ら生殖の手段として扱うことの禁止(3)安全性(4)優生思想の排除(5)商業主義の排除(6)人間の尊厳―を挙げた。日本産科婦人科学会も同じ立場をとる。

 東京高裁は(1)夫妻が子を持つ方法がほかにない(2)代理母はボランティアで協力した―などから六原則に反しないとし、子の立場に立って親子関係を認めた。法務省は代理出産を認めない考えから、最高裁の判断を仰ぐことにした。

 代理出産の考え方は国によって異なる。米国にはネバダ同様、依頼者を母と認める州もある。しかし子の取り合いも起きている。カトリックの影響が強い欧州は、代理母を認めない国が多いという。

 当事者にとって切実なこの問題に、国会は真正面から取り組んでいるだろうか。報告書に基づいた法案は自民党の調整がつかず、厚労省が提出を断念した。しかし出産をめぐっては、今の法体系が想定しない事態が相次ぐ。九月には最高裁が凍結精子の認知訴訟で、「立法で解決するべきだ」と指摘している。生まれ方で相続などに差がつく民法への目配りも要る。

 日本人の海外での代理出産は百例以上といわれる。事実を明かさずに出生届を出すため、問題化しなかったという。向井さん夫妻の訴えを真摯(しんし)に受け止め、新法制定を含めルール作りにつなげたい。

(2006.10.12)


子育てのページTOPへ