中国新聞


笠岡の市立中体罰 新たに2件発覚


 笠岡市の市立中学校で学年主任の男性教諭(45)が体罰で生徒にけがをさせた問題で、この教諭が三年前にも生徒に体罰を加えていたことが十日分かった。同校では昨年も別の四十歳代の男性教諭が生徒の胸ぐらをつかみけがをさせている。市教委は「当時の指導が不十分で、同じ教諭、学校での再発につながった」と対応のまずさを認めている。(杉本喜信)

 市教委などによると、学年主任は二〇〇三年五月の授業中、教室で校外学習の事前指導をしていて、紙飛行機を飛ばした一年の男子生徒の顔などを平手でたたき、脚をけった。けがはなかったという。市民からの指摘で発覚。市教委は直接の説諭などはせず、「管理職を通じて指導する」として対応を当時の校長に任せた。教諭は「引っ張っただけだ」と説明している。

 昨年の体罰は七月に起きた。四十歳代の男性教諭が授業中、教材が手元にないと言った一年男子生徒に立腹。胸ぐらをつかんで廊下に引きずり出そうとして台につまずき、生徒が台から出ていたくぎで脚に軽傷を負い、病院で治療を受けたという。校長から報告を受けた市教委は、この時は教諭を直接指導し、大きく改善したという。

 市教委はこの二件を県教委に報告しなかった。

 安藤伸吾教育長は「学年主任についても市教委が直接指導すべきだった。隠す意図はなく、学校の中で(対応の)目鼻をと思っていた」と話している。


体罰 学校教育法が教員に禁じている。法務省の1948年の通達では、殴る、けるのほか長時間の正座や直立、食事を与えない、こきつかう作業などを含む。県教委の懲戒処分指針は、常習的にした教職員は減給か戒告、傷害を負わせた場合は停職もありうるとしている。

 現場に体罰容認の空気 −学校と地域 連携が必要

 笠岡市内の中学で続いた体罰の背景に、教育現場に根強い体罰容認傾向があると言わざるを得ない。多くの小中学校長は、教員間の「かばいあい」が体罰を助長し、表面化を妨げていると認める。市教委の対応にも疑問が残る。学校だけの努力には限界もある。「対子ども暴力」に対する鈍感さを一掃するため、地域を挙げて意識改革に取り組む時である。(杉本喜信)

 二人の教師による計三件の体罰が明らかになった中学は、いわゆる「荒れた学校」ではなく、明るい表情の生徒が多い。しかし体罰について尋ねると、生徒の多くは「一部に激しやすい先生がいる」と声を潜める。

 女子生徒は「ちょっとしたことで先生がこづく。嫌だった」と打ち明けた。三件の被害が一年生に集中した点については、この中学を卒業した高校生(16)が「体格が小さくてやりやすいから」と話した。

 市教委の安藤伸吾教育長は「学校に体罰を許す雰囲気、体質が残っていたと思う」と認めた。それは、教員間で「見て見ぬふり」が横行していたとの認識である。

校長 嘆きの声

 体罰の表面化を受けて七日に開かれた市立小中学校、幼稚園の臨時校園長会でも、複数の校長から「体罰を加えた本人からの報告はまれ」「校長が知らない例が多い」との嘆きが聞かれた。「察知した教職員が報告するよう研修したい」などの提起もあった。

 この三件の体罰では、市教委も「隠ぺいを図っていた」と見られても仕方ない。九月に起きた学年主任による体罰は、当日に校長から連絡を受けたが、県教委に報告したのは今月六日。外部からの指摘が契機だった。十日に明らかになった二件もこれまで、県教委に報告してこなかった。

 他県で育ち笠岡市で暮らし始めた四十代の主婦は、小学校で罰として児童を立たせていることに衝撃を受け、保護者がそれに疑問を持たないことに二重のショックを受けたという。「教師はプロなのだから体罰をせずに指導するのが当然」と話す。「自分もたたかれて育った」「体罰を受けるようなことをした子どもが悪い」との見方がある点にも心を痛める。

「虐待と同根」

 岡山弁護士会子どもの権利委員会委員の川崎政宏弁護士は「体罰を受けた子どもが大人になって体罰を助長する。そうした暴力の連鎖が起きている。虐待と根は同じだ」と指摘する。

 対教師暴力も後を絶たないなど、教育現場での指導の困難さは理解できる。自分も小学生の子の親として、子育てに確固たる自信はなく、教育は学校だけの責任とも思わない。だからこそ、子どもたちの視線に立ち、学校も地域も体罰を根絶する土壌づくりに乗り出す―。今こそが、その好機ではないか。

(2006.11.11)


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