中国新聞


あいりちゃん事件1年
自然に見守り続けよう


【社説】 きのうの朝夕、広島市内の小学校の通学路はいつにも増して大人の姿が目立った。小学一年の木下あいりちゃんが下校中に殺されてから一年。「事件は二度と起こさせない」との決意が伝わる。でも負担が過ぎると長続きしない。子どもからお年寄りまでが自然体で暮らせる地域づくりを目指そう。

 あいりちゃんの一周忌に当たるきのうは、市が毎月二十二日に定めた「子ども安全の日」の初日だった。各小学校で保護者らが登下校に付き添った。市職員は腕章を巻いて、自宅や職場の周辺で子どもに目配りした。

 市は「見守り活動十万人構想」を掲げる。これまでに地域団体や企業などから約七万一千人の協力を得ているという。ステッカーやジャンパーで、子どもに見分けがつくようにしている。

 ただ、そろいの格好をした大人がずらりと並ぶ脇を防犯ブザーを持った子どもたちが歩く風景は、決して自然とは言えない。「道草もできないのは窮屈だろう」「子どもに自立心が育たないのでは」…。そんな声も聞かれる。

 見守りを重荷に感じる参加者も出始めた。核家族の共働き世帯の限界、ただでさえ忙しい教職員。それを補おうと頑張る地域のお年寄りが「都合よく使われている」と感じていたとしたら、もはやボランティアとは言えない。

 だからこそ「十万人」は象徴的な数字ととらえたい。子どもと直接かかわりがなくても、団体に属していなくても、普通の生活の中で子どもに気を配る気風を生み出したい。あと二万九千人を確保すれば目標達成ではない。

 市は日常に組み込んだ対策にも乗り出している。路線バスのダイヤを登下校時間帯に合わせたり、工事現場に駆け込み場所として協力を求めたり。公園の管理を地域に任せ、子どもが遊ぶ時間帯に作業をするよう呼びかけてもいる。

 散歩や通勤や買い物の道すがらに子どもに会ったら、目を見てあいさつを交わそう。腕章などの目印がないと、初めは警戒されるかもしれない。それでも粘り強く続けて、「あなたたちを見てるよ」とメッセージを送ろう。

 地域の大人の責任は登下校時の子どもの安全確保にとどまらない。縁あって暮らす外国人も含めた老若男女が、気持ちよく過ごせるまちづくりこそが目標である。毎月二十二日はあいりちゃんの無念を思い、住みやすいまちづくりを意識する日としたい。

(2006.11.23)


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