中国新聞


子の心の声に耳傾けて
「そうなんだね」 広島出身の絵本作家千堂さん出版


戸惑い、涙を流せないお母さんたちへ
悩んだ育児から極意

 「子どもの行動には理由がある。それを聞いてあげてほしい」。広島市南区出身の絵本作家千堂りほこさん(40)=熊本市在住=が、つらかった自らの育児経験から得た知恵を絵本にまとめ、出版した。タイトルは「そうなんだね」。もがいた末にたどり着いた、子どもの気持ちに寄り添う子育ての極意を込めた。(森田裕美)

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千堂さんが出版した絵本「そうなんだね」

 世間では、よく「子育ては楽しい」「子どもはかわいいよ」なんて言われる。そして「母親はそう思わなくてはならないという社会の雰囲気もある」と千堂さんは話す。

 「でも、私にとって子育ては、つらいの一言。地獄だった」。小学六年の長男(11)と幼稚園に通う二男(4)の育児に悩んだ二年前までを振り返る。

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 長男は小学校低学年まで学習障害があった。二男は一歳半から三歳になる直前まで叫んだり、暴れたり、手が付けられないほど育てにくく、四人の専門家から発達障害だと言われた。ガラスを見れば割り、風船はかじって割り、ベビーカーの中から「みんな死んでしまえ」と叫んだ。

 「けがをさせてはいけない」「ちゃんとした時間に眠らせなくてはいけない」「食育も重要」という社会の常識や期待に押しつぶされそうになった。本を読んだり専門家に頼ったりもした。

 「もう私に子育てはできない」。ある日ついに、張りつめていた糸が切れた。開き直って、黙って子どもたちの話を聞くことにした。それしかできなかった。

 ずっと子どもを見ていると、本当の姿が垣間見えた。ベランダから外に吹く風に向かって大声で叫び続ける二男。よく耳を傾けてみると、向こうの家から、母親が子どもをしかっている声が聞こえていた。

 「ああ、そうなんだ」。叫ぶ理由が分かれば、その子がどうして怒られているか、何をしてはいけないか説明でき、コミュニケーションが取れるようになった。

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 絵本には、そんな生活で気づいた母と子の心の交流をつづった。

 だんごむしはね、さわると まるくなるの。だからね、たべたくなるの。
 そうなんだね。まるいとたべたくなるね。でもたべちゃうとおそとにでられなくなって、「えーん、えーん」ってなくからたべないでおこうね。
 おさかながね、こっちをじーってみるから、たたきたくなるの。
 そうなんだね。おさかなは ちいさいこをみて、こどものころを おもいだしているのかも しれないよ。そっとしておいて あげようね。

 温かいタッチの絵は、プロのイラストレーターが描いた。

 本は、鹿児島県の児童療育施設で保護者向けに活用されるようになったという。今は、子育ての苦労も少し落ち着いた千堂さん。「こちらが子どもの思いを十聞けば、三くらいは応えてくれる。子育てに戸惑い、うまく涙を流すこともできなくなっているお母さんたちにぜひ手にとってほしい」と思いを込める。

 B5判、二十四ページ。一四七〇円。新風舎から、全国の書店で発売中。

(2007.1.29)


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