中国新聞


子どもの権利 条例で守れ
広島市や市議会・弁護士・市民団体


 ■いじめや虐待懸念制定目指し連携

 いじめや虐待など、子どもの権利侵害や陰惨な事件が多発する中、広島市に中国地方初の「子ども権利条例」をつくろうという気運が高まっている。市議会、市、弁護士や市民グループがそれぞれ制定に向け取り組みを強める中、実効性のある内容にするため、一部では連携の動きも出てきた。(林仁志)

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子ども権利条例の制定を目指し意見交換する研究会のメンバーや市議(1月18日)

 市議会は昨年、障害者支援・少子化対策特別委員会で条例について検討を重ねた。木下あいりちゃん殺害や虐待を受けた幼児が死亡する事件を受け、「子どもを守る仕組みが必要」と判断。非行やいじめが深刻化する背景として「子どもが子どもらしく育つことができない社会になっている」との反省もあり、対策を講じるべきだという思いを共有した。

▽月1回勉強会

 こうした動きに法曹関係者や民生・児童委員、教師などでつくる市民グループ「広島子どもの権利条例研究会」がいち早く反応した。二年前から月一回、中区の広島弁護士会館で勉強会を開き、各地の条例の研究や地域課題を条文にどう盛り込むかなどの論議を重ねてきた。一九九四年、日本は子どもの権利条約を批准したが、子どもを取り巻く環境は一向に改善されないとの思いは強く、その打開策として条例に着目していた。

 会の代表世話人、定者吉人弁護士が、特別委員会の村上通明委員長に連絡。一月の勉強会には村上委員長も出席し、意見をすり合わせた。「子ども条例」「子ども権利条例」という名称問題はさておき、子どもの権利を真正面に据えるという考えで両者の方向性は一致する。

 会の調査では、子どもの権利を明確にうたった条例は全国十七自治体が制定済みか策定中。中でも、会や議会の一部が高く評価しているのは、川崎市の条例。子どもの意見表明権を保障する「子ども会議」▽権利侵害に対する相談・救済機関▽子どもの権利の保障状況を検証する第三者機関の設置―など、実効性を担保する仕組みを設けている。

 定者弁護士は「子どもが尊重される社会を実現するため、条例の理念を各種施策に生かしていけるような内容にしてほしい」と議会や市の取り組みに期待。試案作成など検討作業に積極的に協力する意向を示している。

 一方の市も、以前から検討を続けていたが、このほど発表した「子育て支援パワーアッププログラム(仮称)」の素案に施策の一つとして条例制定を盛り込んだ。

▽市長「早期に」

 開会中の市議会定例会では、条例化に力を入れる馬庭恭子市議が今後の具体的な取り組みを聞いたのに対し、秋葉忠利市長は「学識経験者などでつくる委員会を設け、議会の議論や子どもの意見などを集約し、早期に条例化を図りたい」と明言した。

 広島弁護士会も本腰を入れる。市内で十月に開く中国地方弁護士会連合会の大会で企画するシンポジウムのテーマに子どもの権利条例を選び、制定に向けた流れを加速させる考えだ。

 ムードは盛り上がってきたが、四月には市長・市議会のダブル選挙があり、取り組みは小休止を余儀なくされる。改選後の議論の行方は不透明だが、今期限りで引退する村上委員長は「特別委員会の報告に新体制でも必ず審議するという文言を入れ、頓挫しないようにする」と決意を示している。


子どもの権利条約 児童の権利に関する条約。18歳未満を児童とし保護対象ではなく権利主体ととらえ、包括的な権利の保障を国際的に定める。1989年に国連総会で採択され、日本は94年に批准した。条約の精神を地域社会や暮らしに根付かせようと、川崎市が2000年に国内初の子どもの権利条例を制定(01年施行)。岐阜県多治見市や富山県魚津市なども定めている。

(2007.2.20)


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