中国新聞


地域医療 大学頼み限界
福山市民病院産婦人科 4月から休診


 ■自力での医師育成迫る

 全国的な産婦人科医師不足が、人口四十六万の中核市・福山をも揺るがしている。出産時の救急患者処置の中核を担う福山市民病院(蔵王町)の産婦人科が、岡山大(岡山市)の医師派遣中止で、四月から休診となる。母子救命機関の休止は、地域医療のあり方を、従来の大学の医局頼みではなく、地域が自力で探る必要性を求めている。(備後本社・野崎建一郎)

Photo
4月から休診となる福山市民病院産婦人科の待合室

 昨年秋、福山市内の産科病院で、二十歳代の女性が帝王切開で赤ちゃんを産んだ。医師が切開部を縫合した直後、傷あとから出血が止まらなくなった。播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)だった。

 放置すれば大量出血のため数十分で絶命しかねない重症。産科病院は処置しながら、救急車で市民病院に運んだ。女性は呼吸困難なショック状態に陥ったが、市民病院の医師の処置で、数時間後に容体が落ち着いた。

広島県東部の救急拠点

 市民病院は二〇〇五年四月、重篤な急患を受け入れる救命救急センターを開設した。以降、産婦人科は大量出血など主に母体の緊急事態に対処する県東部の中核を担ってきた。母親に生命の危険があった治療例は昨年末までに二十三件で、すべて救命している。

 「出産では常に不測の事態が起き得る。開業医の多くは市民病院の休診に不安を持っている」。県東部の医師七十人でつくる産婦人科医会の兼森博章理事は打ち明ける。「母子の命を救えない可能性があるなら、産科医をやめる医師も出るのではないか」

医局も所属医半減

 産婦人科の休診は、二人の医師を送る岡山大の「派遣中止」決定でもたらされた。その背景には大学病院の産婦人科医師不足がある。厚生労働省の調べでは、〇四年の産婦人科医師は約一万人で十年前から千人近く減った。さらに大都市圏に若手が流れ、地方の大学病院の多くは所属医師不足に頭を抱える。

 岡山大病院産科婦人科も所属医師が十年前の約半数の二十二人に激減。「限られた人員でしっかりした医療態勢を維持するには、医師を重点配置する病院の『集約』は避けられない」と同科の平松祐司教授は説明する。

 岡山大は、市民病院の二人を同じ福山市の中国中央病院(御幸町)に移す決定を下した。医師は福山地域からは離れない形となる。一方で、市民病院の救急機能は当面、医師五人を派遣している国立病院機構福山医療センター(沖野上町)に担ってもらう考えでいる。

市や医師会 腰重く

 それでも福山市や市内の医療関係者には岡山大への不満もくすぶる。「急患を扱う市民病院は最優先のはずなのに…」。しかし、岡山大は三年前から、福山市民病院、中国中央病院、福山医療センターなどに対し、医師不足への対応を求めていた。なのに経営母体の枠を超えた協議はほとんどなかった。市や市医師会は十九日、産科医療の初の官民会議をようやく開く。

 市民病院の産婦人科休診は、地域の医療態勢を大学病院の人事に頼ってきたシステムの限界も浮き彫りにした。地方の自治体と医師会、病院は、地域で医師を育て、その配置と拠点の整備を自ら考えていかなければならない段階に差し掛かっている。


福山市民病院 1977年に現在地に開設し、病床数約400、医師は約70人。内科や脳神経外科など19診療科があり、県東部で唯一の救命救急センターを置く3次救急医療施設。ヘリポートを備え、24時間態勢で重篤な救急患者を受け入れる。産婦人科は現在、医師2人で2005年の出産数は119。

(2007.3.19)


子育てのページTOPへ