中国新聞


広がる「朝の読書」運動
学校図書館の充実急務


 ■小中学校、基準達成3割台 中国5県、岡山以外は低水準

 授業前十分間の「朝の読書」運動が広がるなど教育の場で読書の効果に注目が集まり、学校図書館の蔵書を充実させようという動きが出ている。文部科学省は本年度から五カ年計画で計一千億円かけ、本を買う費用を支援する。本の数の基準(図書標準)を満たす小中学校は全国で三割台にとどまるうえ、使われないままの古い本も少なくない。住民の側も改善を求める声を積極的に上げ、自治体を動かす必要がある。(東京支社・道面雅量)

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尾道市立三成小の学校図書館。市教委から週2回派遣される学校図書館協力員が読書の助言もする

 テーブルクロスを敷いた丸机で子どもたちが本を読む。壁には作家紹介の掲示がにぎやかだ。尾道市美ノ郷町の三成小は二年前から図書館のリニューアルを進め、子どもの興味を引く工夫をこらしてきた。本年度の文科省の読書活動優秀実践校にも選ばれた。

 同市では学校での読み聞かせボランティアの活動が盛んで、市教委が背を押され、取り組みを始めた。三成小では本をバーコード管理、各教室にも担任のお薦め本の棚を設けている。小規模校で司書教諭がいないため、司書の資格を持つ学校図書館協力員も週二回派遣。貸し出し事務や読書の助言をする。

 ▽「子どもが変わる」

 「学校図書館が変わると子どもが変わる」。平盛幸宏校長の実感だ。「読書の分だけその子の世界は広がり、他人への想像力がつき、いじめとは縁遠くなる。雰囲気が落ち着いた」と喜ぶ。

 「朝の読書」運動の広がりから、関係者の読書に寄せる期待の大きさもうかがえる。一九八八年に千葉県の一私立高校で始まった運動は、九七年ごろから急速に全国に広がった。朝の読書推進協議会の調査によると、今年四月現在、全国の小中高校の63%、約二万五千校で実施している。

 同協議会の佐川二亮事務局長は「九七年は少年の凶悪犯罪や学級崩壊が話題になったころ。集中力がついた、授業にスムーズに入れる…。そんな効果が口コミや研修会で広がった」と解説する。

 ところが、子どもが最も身近に、お金をかけずに本を手にできるはずの学校図書館は全国的に寂しい状態だ。文科省によると、本の数が学校の規模に応じて定めた図書標準に達している学校は二〇〇四年度末で公立小が37・8%、公立中は32・4%にとどまる。

本の数が基準を達成している
公立学校の割合

(%、04年度末)
 小学校中学校
広島県36.029.9
山口県25.921.1
岡山県51.243.4
島根県20.722.9
鳥取県14.425.0
全国平均37.832.4

 標準の達成は冊数だけで計り、使われていない古い本も計算に入れるため、実際はもっと低いとの指摘もある。三成小でも標準には足りず、市立図書館から学級単位でまとめ借りして補っているのが現状だ。

 文科省は標準を定めた九三年から学校が本を買う費用を助けるため、年に百〜百三十億円を地方交付税に算入してきた。だが、使い道が限られていないため、自治体によっては他の目的に回したり、捨てた本を新しくするだけにとどまり、達成率は伸び悩んできた。

 中国五県で達成率が全国平均を上回っているのは岡山県だけ。近年、鳥取県が購入費を増やしたのが目立つ程度だ。

 対応策として文科省は本年度から「新図書整備五カ年計画」を立て、今までの倍近い年間二百億円を充てた。うち八十億円は純粋に本を増やすために使い、残りの百二十億円は古い本を新しくするために使う。木岡保雅児童生徒課長は「目的を分けることで本当に本を増やすための費用が確保できる」と説明する。対象である公立小中学校に均等に分けたら、一校当たり五年間で約三百万円に相当する。

 ▽首長の熱意に左右

 ただ、交付税である限り、使い道を決める権限は自治体にある。本当に本を増やす資金になるか、保証はない。全国学校図書館協議会の笠木幸彦理事長は「たまたま熱心な首長なら子どもがたくさんの本に触れられ、そうでなければ古本の倉庫があるだけというのは、特に義務教育では問題が大きい」と指摘する。今月三日、東京都内でフォーラムを開き、全国の自治体に五カ年計画を実行するよう求めるアピールを採択した。

 「朝の読書」で本の持ち合わせがなく、教科書を開いてやり過ごす子もいるという。学校図書館にある本が魅力的ならそうはならないはずだ。地元の学校で図書館が倉庫代わりになっていないか、住民も関心を持って見守る必要がある。


 ■「教育の心臓」 常に手入れを −全国学校図書館協議会・森田盛行事務局長に聞く

Photo「森田盛行事務局長」

 「学校図書館は学校教育の心臓」。全国学校図書館協議会は一九五〇年の発足以来、そう訴え続けている。「心臓」は単なる施設ではなく生きた機能でなければならない。敗戦後、まだ教室すら満足に整っていない時代に校長の有志らが任意団体の協議会をつくり(現在は社団法人)、充実を訴えてきた。

 学校図書館法の制定は五三年。すべての小中高校に図書館の設置と司書教諭の配置を義務づけた。しかし、司書教諭は養成が間に合わず「当分の間、置かないことができる」とされた。この付則が教科書中心の教育の中でいわば拡大解釈され、司書のいない、本の倉庫のような「図書室」が全国にあふれてしまった。一部の本好きな子だけが来る場所のイメージが定着した。

 九七年にようやく法改正され、十二学級以上の規模の学校には二〇〇三年以降、司書教諭がもれなく配置された。そして今、図書標準の低い達成率が示す本の不足が大きな課題になっている。

 学校図書館は読書の場としてだけではく、学習センター、情報センターとしての機能が期待できる。授業と連携した「調べ学習」に使うため、読み物以外の本も増やす必要がある。情報を使いこなすリテラシー(能力)をはぐくむには、インターネットの活用と合わせ、本と照らし合わせて確かな情報をより分ける力を付けることが大切だ。

 本は増やすだけでなく新しくすることも大切。東ドイツやソ連が載っている色あせた地図帳が現役では困る。「心臓」である学校図書館は生き物であり、常に手入れしないと死んでしまう。


図書標準 文科省が定めた学校図書館の蔵書の整備目標。学級数に応じた計算式ではじき出す。小学校なら12学級で7960冊、30学級で12760冊。中学校では6学級で7360冊、15学級で12160冊。

(2007.4.22)


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