中国新聞


広島市立小
独自の英語科 6月試験導入


 広島市教委は六月から、市立小学校の一部に独自の新教科「英語科」を試験導入する。国の構造改革特区として認定された「ひろしま型カリキュラム」の一つで、二〇一〇年度を目標に全市立小の五、六年生が学ぶ。だが現状では「指導に自信が持てない」などと学校現場には戸惑いがある。小学生向け指導方法の確立や学習効果の検証など、市教委自身が学び、解答を導き出すべき「宿題」は多い。(報道部 田中美千子)  

■教員の戸惑い解消を− 指導法確立、市教委に宿題

Photo
非常勤講師(手前中央)に英語での自己紹介の仕方を教わる児童。担任は見学し指導法を学んだ(広島市安佐南区の安西小)

 「fine(元気)」「hungry(おなかがすいた)」。市教委の指導主事の問い掛けに、五年生は元気よく返事した。モデル校の一つ、安西小(安佐南区)であった教員研修。担任に代わり、指導主事と非常勤講師があいさつ表現を教えた。英語と日本語を使い分け、歌やゲームで英語の世界に引き込む。担任は見学し、指導法を学んだ。

3年後に完全実施

 五、六年生が学ぶ英語科は、本年度は六月からモデル六校で実践授業を始める。外国語指導助手または非常勤講師と担任の二人一組のチームティーチング(TT)で、「話す」「聞く」を中心に教える。市教委は三年後の完全導入に向け、段階的に実施校を拡大していく方針だ。

 市教委が導入に踏み切る理由の一つが「中学生の英語嫌い」。広島県が毎年実施している学力、意識調査で近年、中学入学後一年間で約四割の生徒が「英語が好きではない」と答えている。市教委は「話す、聞く、読む、書くの四つを一気に学習するのは重荷」と分析し、小中五年間での系統的学習が望ましいと判断した。学校長や学識経験者らの検討委員会も〇六年四月、導入を提言した。

 小学校での英語教育は全国的な流れにもなりつつある。文部科学省が〇四年に全国の公立小学校で実施した調査では、保護者の約70%が必修化を肯定した。中教審専門部会も〇六年に、小学五年からの必修化を提言している。

現場の3割 否定的

 ただ現場の意識は隔たる。やはり文科省の調査で、教員の約三分の一が必修化に否定的、約三分の一が「どちらとも言えない」と回答した。免許取得の過程で、英語指導の専門教育を受けていないための不安があるとみられる。

 広島市でみても、市立小の教員約二千六百人のうち英語指導の免許を持つのは百人余り。こうした現状に対し、全校での完全実施には全百四十一校で七百人の教師が必要となる。さらに全校でTTを実施するには、大勢の外国語指導助手らを確保しなければならない。

 教員歴二十五年の女性教諭は「日々の指導で手いっぱいで、新教科の教材研究ができるかどうか」と不安をこぼす。三十歳代の教諭は「はじめから『導入ありき』にも思える。子どもたちにどんなメリットがあるのかが見えない」と漏らす。

塾など研修を準備

 市教委は三年間で教員七百人が受講する「英語塾」を開くなど、指導力向上のための各種研修を準備している。本年度はモデル校での実践を通し、まず五年生のカリキュラムを確立。一時間ごとの細かい指導案や指導計画を作り、達成度評価の方法も検討して混乱がないよう努めるという。

 「先進的な取り組み」もあくまで、児童や生徒の学力、能力向上が目的である。教える側に戸惑いが残るようでは、果たして英語が子どもたちの身に付くのか、疑念は消えない。市教委と現場とが理念を共有し、ともに知恵を絞りながら、有効な指導法の確立や課題解決に努めるべきではないか。


ひろしま型カリキュラム 思考、判断、表現力向上を図るとともに小中学校の連携・接続改善を目指す。小学校の英語科のほか、グラフや文章を読み解くなど既存教科の学習で得た知識や学力を活用して自身の考えを表現する「言語・数理運用科」(小5―中3対象)を新設。同科は10月から一部小学校で試行、来年度は中学校でも実施し、2010年度に完全導入する。

(2007.5.17)


子育てのページTOPへ