中国新聞


「育てながら働く」浸透
日立ソフト 短時間勤務4パターン
サタケ 男性の育休取得を推進


 ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を具体的に、どう進めるか。企業の模索が続く中、先駆けて取り組む企業を表彰する「第1回ワーク・ライフ・バランス大賞」が先月、発表された。受賞した企業の取り組みを見た。

 広いフロアにパソコンを載せた机がずらりと並び、社員が黙々と画面に向かって作業する。東京都品川区の「日立ソフトウェアエンジニアリング」。コンピューターのソフトやシステム開発を手がける企業だ。

 従業員数は五千九十三人。社員の一人、往岸(おうぎし)恵さん(41)は、小学六年(12)、小学三年(9)、保育園年長児(6)の三人の男子の母親で、横浜市内に住む。勤務時間を短縮できる「短時間勤務制度」を長男出産後の十一年前から使い、子育てと仕事を両立させてきた。

 現在の就業時刻は、午前九時四十五分から午後四時半まで。六時間勤務だ。保育園が自宅近くにないため、退社後、三男を迎えに行って帰宅するまで二時間近くかかることも。子どもが二カ所の保育園に分かれて通っていた時もあるが、「おかげで乗り越えてこられました」と往岸さん。

 昨年八月、「調和のとれた生活」の実現を推進しようと、学識者や企業関係者らが「ワーク・ライフ・バランス推進会議」を設立。同会議は先月九日、「第一回ワーク・ライフ・バランス大賞」を発表した。「大賞」は該当企業がなかったが、「組織内活動表彰」優秀賞に、「日立ソフトウェアエンジニアリング」など三社が選ばれた。

 女性の声反映

 同社は昨年九月、自社に合ったワーク・ライフ・バランスを実現しようと「女性」「若手」「シニア」の三つのワーキンググループを組織。すでに短時間勤務制度はあったが、「子どもの小学校入学まで一日六時間」という規定に、女性グループから「小学校入学後も親の出番は多い」「通常勤務が可能な日もある」などの意見が上がった。

 このため今年四月から、勤務時間を四、五、六、七時間から選択できるようにし、期間も小学校卒業までに変更した。

 社員が始業・終業時刻を決められる「フレックスタイム制度」もあったが、必ず勤務すべき時間帯「コアタイム」を「プレッシャーに感じる」という声があり、コアタイムのないフルフレックス制も導入した。

 現在、短時間勤務利用者は五十人。このうち四十一人がフルフレックス制も使っている。勤務時間の短縮分の給与は減るという。

 往岸さんは「私が就職した当時は、妊娠イコール退職。最初の子を妊娠したとき、上司から『後輩が続けられるようにするためにやってみたら』と言われ、働き続けてきた。今は育児しながら働くスタイルが社内に浸透してきた」と話す。

 同社はさらに、育児中の女性だけが早く帰れる不公平を避けるため、午後九時に一斉消灯する「21時ルール」や、基準を超えた長時間残業や休日労働をしそうな社員がいた場合に上司に警告メール送信も行う。

 「モデル期待」

 「組織内活動表彰」優秀賞はほかに、男性の育児休業取得を、独自制作したポスターなどで推進している東広島市の食品機械メーカーの「サタケ」(従業員数千八人)、事業所内託児所を設けている秋田県の金型製作、プレス加工会社「カミテ」(同三十一人)。

 同会議推進委員の江上節子・早稲田大大学院客員教授は「バブル経済崩壊後の『失われた十年』といわれる時代、新卒者の多くが当時も成長していたIT(情報技術)関連企業に就職した。残業が恒常的だったIT業界も今は曲がり角」と指摘し、こう話す。

 「今後、企業イメージを上げて、いい人材を確保するためには、生活との調和を図る人事戦略が必要だ。受賞企業の取り組みがモデルとなり、良い影響が及ぶことを期待したい」(岩岡千景)

(2007.12.10・夕刊)


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