中国新聞


大学全入時代 あえぐ中国地方<上>
大都市圏から「入試攻勢」
私立24校 定員割れ


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塩見ホールディングスが新築した山口福祉文化大の学生寮。145室のうち入寮者は12室にとどまる

 全国公立大と大半の私立大が参加する大学入試センター試験が十九日から始まる。しかし、十八歳人口の減少から一部の難関校を除けば、志願者と入学定員が同数の「大学全入時代」に実質入っている。中国地方の四年制の私大三十六校のうち、三校に二校が昨年は定員を充足できなかった。若年人口の集積も担う大学の浮沈は、地域の未来にも大きくかかわる。中国地方の大学の現状と展望を探る。(藤村潤平)

 「一学年百四十人を、山陰だけで確保するのは無理」。萩市にある山口福祉文化大の塩見範雄理事長(60)は、人影もまばらなキャンパスで率直に明かした。大幅な定員割れから経営難に陥り、民事再生法の適用を受けた萩国際大を支援する建築設計関連の塩見ホールディングス(広島市南区)の営業本部長でもある。  福祉系の学部に改組し、校名も一新したが、初年度となった昨年の入学者数は二十四人。萩国際大時代からの五十四人と合わせても、全学生数は七十八人にすぎない。

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なりふり構わず

 「地方」「小規模」「新設」―。定員割れした大学に共通した点だ。高校や予備校の担当者が一様に指摘するように、受験生は大都市圏の大学への志向を強め、二極化現象が深まっている。

 塩見理事長は、東京都と呉市にある関連事業所内にサテライト教室の開設を文部科学省に掛け合い、取り付けた。「留学生や社会人が都市部で働きながら学べるようにして定員を確保する」のが狙い。入学予定者は現在、昨年より倍増の五十九人を確保した。大学存続のために、半ばなりふり構わぬ学生集めをせざるを得ない現実が、地方の私大にのしかかる。

 人口減が続く中国地方では昨春、三十六校のうち二十四校が定員割れ。四校は定員の半分にも達しなかった。調査を続ける日本私立学校振興・共済事業団は「地方の私大は教育や就職で特色をつくっていかないと、学生の確保はますます困難になる」と、破たんが起きることを否定しない。

 大都市圏の有力校も地方への出張入試や、一回の試験で複数学部に出願できる「統一入試」を次々と打ち出し、学生の取り込みを強める。

広島は草刈り場

 「とりわけ広島は受験生の草刈り場になっている」と、大手予備校の代々木ゼミナール広島校は解説する。進学率が京都、東京に次ぐ全国三位と高く、昨年は進学した約一万五千三百人の50%が県外の大学を選んだ。この二月には明治大が初めて会場を設けるなど、百三十一校が広島市で出張入試を実施する。広島の私大は首都圏や関西圏の攻勢にもさらされている。

 定員割れの私大に対し、政府は二〇〇七年度から補助金の減額幅を拡大する一方、解消に取り組む大学には特別補助金を五年間交付する。いわば「アメとムチ」の制度の導入。この制度に、私大五百八十校のうち七十四校が応じた。今月内にも内定通知が出る。

 広島市安芸区の広島国際学院大も申請した。四月に工学部と情報学部を改組し、定員を四百九十人から約三割減の三百四十人とする。今の学生数を維持できれば、全体の定員充足率は61%から88%に改善する見込みだ。

 ただ、今村詮(あきら)学長(73)の表情は硬い。「高校三年生への求人回復もあり、肝心の新入生の確保が見通しにくい」という。経営改善に努めながらも、それを上回る勢いで激化する大学間競争の波が、自校にも押し寄せているからだ。

(2008.1.11)


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