中国新聞


「少数派」の子に配慮を
教師や親へ理解訴え
同性愛公表 広島の大学院生・眞野さん


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「同性愛の子どもに配慮した教育を」と訴える眞野さん

 広島修道大(広島市安佐南区)の大学院生、眞野豊さん(26)はゲイ(男性同性愛者)であることを公表している。「セクシュアル・マイノリティー」(性的少数者)への理解を広めたいと、少年時代に受けたいじめの体験などを、公の場で積極的に語っている。情熱を支えるのは、自分のように、つらい思いを抱える子どもをなくしたいとの一念だ。

 眞野さんを講師に招いた勉強会が一月中旬、広島市中区であった。主催したのは、子どもの人権を尊重した暴力防止プログラムのワークショップを提供している特定非営利活動法人(NPO法人)CAP広島。学校の先生や子育て中の親ら約五十人が参加した。

 「男の子はぬいぐるみを持ってはいけないの? と心の中で泣いていました」。眞野さんの講演は、幼少時代の悲しい体験から始まった。北海道の酪農家の三男として生まれ、物心ついたころからぬいぐるみが大好きだった。「男の子なのに…」と心配する両親を安心させようと焼却処分した日のことを、今も鮮明に覚えているという。

 小学生になると周囲の男子が使う「オレ」がどうしても言えず、会話にとけ込めなかった。男子よりも女子と一緒に遊ぶ方が楽しかった。やがて思春期を迎え「女性への性的興味が持てない」と自覚するようになった。

 当時、テレビの人気番組では「ホモ」を中傷し、からかうコントが放送されていた。「自分は変態なんだ」と大きなショックを受けた。親にも先生にも同級生にも、絶対に「秘密」を打ち明けることはできなかった。

 中学二年の時、クラス全員からいじめを受けた。「特に、友達だと思い信頼していた女子グループからのいじめは耐え難かった」。高校時代も、男子生徒同士で恋愛や性の話で盛り上がるのが「異性に興味を持たない自分には怖くてたまらず」、クラス内で孤立を深めた。

 眞野さんが長年の孤独から解放されたのは、北海道での学生時代に「レインボーマーチ札幌」などを通じて、多くの「仲間」と出会ったのが大きなきっかけとなった。昨年十一回目を迎えたマーチには、約千人のゲイやレズビアンが参加。札幌市内の大通りをパレードし、多様性を象徴する六色の風船を飛ばした。

 「仲間との出会いで、勇気をもらった。堂々と生きていいんだ―と、前向きに考えることができるようになりました」

 眞野さんは、広島修道大大学院では河口和也教授らの指導を受けながら、少数派への偏見や差別をなくす「多文化教育」を推進したいと、教師を志している。脳裏には、かつての自分のように教室で孤独に耐える少年、少女の姿がある。

 「『同性愛者であると周囲に知られ、愛する家族を悲しませる前に自殺しよう』と本気で思っていました。子どもにこんなことを思わせる、教育であってはならない」。時折、声を詰まらせながら自らの体験を語った眞野さん。涙をぬぐいながら聴き入る参加者の姿もあった。(西村文)


 ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル(両性愛)、トランスジェンダー(自分の性に違和感を持つ人)などを指す。民間の調査では、国内に274万人いると推定されている。

(2008.2.4)


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