中国新聞


指導要領改定案 学力向上にどうつなぐ


【社説】 小中学校の授業時間数を大幅に増やす学習指導要領の改定案を、文部科学省がきのう、発表した。時間数は一九七七年以来、ずっと減り続けている。約三十年ぶりの軌道修正だ。時間数増が真の子どもの学力や生きる力のアップにつながるか、が試される。

 「ゆとり教育の見直し」は、安倍晋三前首相が旗を振った教育再生会議が打ち出した。中教審がその方向で答申し、文科省がお墨付きを与えたように見える。

 時間数そのものを小中で年間三十五時間増やす。増えた時間を再配分して、算数や英語など主要教科を厚くし、総合的な学習を削る。これが改定案の柱だ。

 中学でいえば、ほとんど毎日が六時間授業になるケースも出てこよう。ただ、主要教科をみっちり教えるのだから成績が上がるはず―と思える人はどれぐらいいるだろうか。

 子どもたちに欠けているのは学ぶ意欲、と現場で聞く。経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)でも、同じ指摘がされている。とすれば子どもを長く縛り、教える量を増やしても効果は薄かろう。

 考えるべきは「知りたい」という意欲や「やっぱり学んでおかなければいけないのだ」という認識を子どもたちが抱くよう、どう水を向けていくかである。増えた時間でこうした点に工夫を凝らすことが望まれる。

 削減された総合学習をどうするかの課題も残る。失敗例がある一方で、試行錯誤の末に子どもが地域につながったり、テーマを決めた探求の面白さを知ったりしたケースも数知れない。

 やっと方法論が定着しかけている。なくすのは惜しい。この蓄積を新体制でどう生かし、引き継ぐかを考えたい。

 時間数増であおりを食いそうなのがクラブ活動だ。放課後が短くなる。改定案にはクラブがはっきり位置付けられていない。学習との「両立」が図られるような詰めができないだろうか。

 旗振り役が去ったせいか、道徳の教科化などが見送られ、全体のトーンは比較的穏やかになった。コミュニケーション能力など現代的な課題を盛り込んだ点については評価できようか。

 改定案は告示後、二〇〇九年から一部実施される。一時的な混乱はあろうが、その時は「真の学力とは」との原点に返って、現場サイドに立った対応が望まれる。

(2008.2.16)


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