中国新聞


子どもの将来優先 結論急げ
広島市の特支学校建て替え難航


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 老朽化や教室不足にあえぐ広島市立広島特別支援学校(中区大手町)の建て替えが、難航している。移転候補地の広島港近くの埋め立て用地の使途変更をめぐって、市と県の意見が食い違っているのが原因。障害児の自立へ向け、役割が増す特別支援学校。両者はその認識を最優先に、いち早く結論を出すべきだ。

 市役所本庁舎から西約百メートル。築五十六年の旧大手町中校舎を引き継いだ建物は、廊下や壁に補修の跡が目立つ。普通教室は足りず、特別教室を振り替えている。ランチルームは職員室をカーテンで仕切ってつくる。

 本年度は昨年度に比べ、通学者が六人増え二百五十九人に。学級数も五十八から五十九になる。結局、自立訓練用の部屋を普通教室にしてしのいだ。

▽25年で通学者倍増

 一九八三年の開校当時は百三十九人。二十五年間でほぼ倍増した。九三年設置の高等部の増加が際だつ。嶽野寿正校長(57)は「社会で自立し生きる力をはぐくむ高等部教育への期待は大きい」と話す。現在の敷地は約一・八ヘクタール。仮設校舎を増設する余裕はない。

 市教委の計画では新しい学校の開校予定は二〇一〇年度中。完成には四年を要す。いまゴーサインが出てもすでに間に合わない。遅れの原因は、市教委が移転候補地に選んだ出島地区メッセ・コンベンション等交流施設用地をめぐる事情がある。

 この用地は市土地開発公社の所有。一方で、埋め立て地の一帯は県の港湾計画で位置づけられ、用途変更には県の審議会で承認が必要。市は、メセコン用地一〇・五ヘクタールのうちの東側二・五ヘクタールを学校用地へ変更するよう求めている。

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職員室をカーテンで仕切って設けたランチルーム(左側)=広島市立広島特別支援学校

▽一体的な精査主張

 要請時期は県、市で認識が違うが、昨年末のトップ会談で秋葉忠利市長が、藤田雄山知事に協力を要請したことで表面化した。打診を受けた県は、隣接する埋め立て中の南側地区(四三・七ヘクタール)を含めた一体的な利用計画を精査した上でないと、用途変更の手続きに応じない構えだ。

 県港湾企画整備課は「早期解決へ努力はするが、重大な政策判断が必要」と主張する。県内部には、出島地区について「都市圏の将来をにらんだまちづくりの大切な種地」としての意見が根強い。

 市教委の荒本徹哉教育次長は「県に財政負担を求めるわけでもなく、自分の土地に学校を建てるのに…」と唇をかむ。メセコン施設は縮小方針を決めており「用地利用に支障はない」とする。

 県が難色を示す背景は何なのか。実は隣接する南側地区は、具体的な利用計画が未定のまま。県、市を含めた誰が整備するのかも財政問題が重くのしかかり、決まっていない。市幹部は「自分の計画だけを市が優先していると、県が不快感を抱いている」と漏らす。

 出島への移転は一部保護者に「交通の便が悪くなる」と異論もあり、PTAの善川夏美会長(44)は「建て替えの遅れは子どもにとって損失でしかない。出島にどんな学校をつくるのか、具体像を示して」と語気を強める。

 県と市は一月以降、議会定例会中を理由に協議の場を設けていない。解決への糸はもつれたままだ。

 両者は近く協議を再開するというが、市は糸を解きほぐすための誠意を県に伝えきれているのか。県は、子どもの将来を見据える姿勢で考えているのか。行政同士のメンツのぶつかりあいなら、それは許されない。

(2008.4.3)


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