中国新聞


対話で母親の不安解消
広島県東部の乳児家庭支援事業


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訪問の打ち合わせをする三上会長(左から2人目)、藤井さん(同3人目)らボランティアや保健師ら

 生後四カ月までの乳児のいる全家庭の訪問を目指す国の補助事業「こんにちは赤ちゃん」が、広島県東部の三市二町で始まっている。保健師ら専門家や子育て経験者を活用し、母親の不安の軽減や地域一体での子育て、虐待防止につなげる試み。だが、孤立する家庭をなくすための「訪問率100%」に向けては課題も少なくない。

 ▽ボランティア組織も一役 訪問率100%目指す

 福山市は二月から試験的に事業をスタート。子育て経験者や保育士、栄養士らで構成するボランティア組織「キラキラサポーター」の約百人に研修を実施し、訪問を担当してもらっている。

 「上の子の『赤ちゃん返り』に困っているんです」「子どもがストレスを感じているみたい」…。十五分程度の相談で終わる人がいる一方、二時間近くかける人も。子どもが複数いる家庭では、第一子の養育に悩む母親が目立つという。

 サポーターの一人の主婦藤井典枝さん(46)は、自身の子育てに基づき、乳児の生活リズムの作り方などを助言する。「すべてが経験に当てはまるわけではないけど、気負わず子育てをしてもらいたい」と願う。三上貴久美会長も「つらさや大変さを聞いてもらうと、元気になる」と対話を呼び掛ける。

 同市では、保護者が出生届を出す時に訪問の同意書を提出する。提出したのは全体の86%で、同意はうち七―八割という。同意しない理由について、市健康推進課は「周囲に支援者がいたり、仕事の事情があったりするのでは」と推測。三年後の訪問率100%を目指し「地域みんなで子育て支援の体制を整えたい。赤ちゃんを産むと訪問は当たり前、というくらいに浸透すれば」と強調する。

 県東部ではほかに三原市、世羅町が昨年四月、府中市、神石高原町が今年四月に事業を始めた。最近は出産後の里帰り期間が長期化する傾向にあり、生後四カ月以内の訪問が難しい場合も。福山市などの都市部では、個人情報を知られたくないことを理由に断る母親や、連絡がつきにくい母親もいるという。

 尾道市は「住民への周知と人材育成が課題」(子育て支援課)と事業導入を検討中。当面はこれまで通り、保健師や助産師の新生児訪問で対応する。事業が唱える「全家庭訪問」というハードルをにらみ、各市町の模索が続いている。(赤江裕紀)


クリック 厚生労働省が2007年度、乳児家庭の孤立を防ぎ、早期に虐待を予防しようと創設。国は、実施主体の市町村に事業費の一部を次世代育成支援対策交付金として補助する。生後4カ月までの乳児のいるすべての家庭を訪問、不安や悩みを聞き、母子の心身の状況の把握や助言、情報提供を行うことを目標とする。訪問スタッフには保健師、看護師のほか、子育て経験者や母子保健推進員、児童委員も登用できる。

(2008.4.15)


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