中国新聞


里親ボランティア 地域の養育力高めたい


【社説】 大型連休もきょう限り。「こどもの日」のきのうは、おじいちゃんやおばあちゃんも加わって、行楽地や花の名所に繰り出した家族連れも多かったことだろう。親子の絆(きずな)を確かめ合えるひとときだ。

 家庭のぬくもりに浸れない子どもたちが増えていることも忘れてはなるまい。突然の親の事故や病気、離婚、リストラ、虐待…。いろんな事情で養護施設に預けられた乳幼児や児童・生徒である。生後間もなく病院の前などに置き去りにされ、親の顔を知らないままの子もいる。

 そんな子どもたちのために、里親制度がある。広島市は従来の制度に加えて、盆と正月の二週間程度、子どもたちを引き取って養育する「ふれあい里親制度」を設けてきた。

 さらに本年度からは、学校が休みになる週末や連休にも広げる「ホリデー里親」を募る準備を進めている。期間を自由に選べるようにすることで、里親希望者を増やそうとの狙いである。

 定年で時間的なゆとりが生まれる団塊の世代を中心に、豊かな子育て体験を地域社会にもおすそ分けしてもらえないか。そんな思いも込められている。

 この大型連休には間に合わなかったが、できるだけ早い実施を目指すという。広島県も広島市の取り組みを参考に、県内への普及を図る方針だ。里親ボランティアの輪を広げ、ぜひとも軌道に乗せてもらいたい。

 なぜ今、里親なのか。ピンとこないかもしれない。もともとは終戦直後の混乱期、戦災孤児の救済などを目的に、児童福祉法に基づいて始められた制度である。法の制定から六十年余りたち、当時とは別の意味で、子ども受難の時代を反映しているともいえそうだ。

 県内の児童養護施設では現在、約八百二十人の定員に対し、七百人余りが暮らす。父母らによる幼児や児童への虐待が急増しているのも要因の一つだ。被害に遭った子を親から引き離し、自立に向けた支援に取り組んでいる。

 全国各地の養護施設でも、同様に満杯に近い状況が続いているという。そんな中で、あらためて注目を浴びるのが親代わりを務める里親制度である。心身に傷を負った子どもたちが、家庭の良さを味わう機会にもなっている。

 広島市児童相談所のベテラン職員によると、里親と交流する機会に恵まれた子どもたちは、精神的にも安定しやすいという。

 しかし、養子縁組を含めた本格的な里親登録者は、市内では数人にとどまる。ふれあい里親への申し込みも毎年、二十人前後と増えていないのが実情だ。

 それだけに、ホリデー里親制度は、敷居を低くする試みとして注目される。行政は、こうした新たな取り組みを広く知ってもらう努力を重ねる必要がある。

 欧米やアジア諸国に比べて、日本では里親の引き受け手が極端に少ないのが現実だ。市民が積極的に向き合っていく。それが地域の養育力を高める一歩にもなろう。

(2008.5.6)


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