中国新聞


栄養教諭 食育に奮闘中
広島の皆実小 食べ残し・朝食抜き減少


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栗本教諭(中央奥)の指導を受けながらニンジンの皮をむく皆実小の2年生たち

 学校が「食育」に力を入れ始めている。新しい学習指導要領に初めて明記され、昨年度の全国学力テスト結果も朝食と学力の相関関係を「証明」した。食の大切さを児童、生徒にどう教えるのか―。栄養教諭が配置されている広島市南区の皆実小を訪ねた。(見田崇志)

 二年四組の教室では「学級活動」の一時間目、児童二十七人が腕の太さほどのニンジンと向き合っていた。

 ▽県内10人のみ

 「こうやって皮をむくんじゃね」。声を弾ませ、ぎごちない手つきで皮むき器を動かす児童たち。むき終わったニンジン約六十本は調理場に運ばれ、給食の祭りずし(ばらずし)と汁の具材になる。

 「自分で一生懸命やったら、給食を残そうと思わないよね」。栄養教諭の栗本淳子教諭(45)が声を掛けた。担任が見守る中、給食で食べ残される野菜の量を教え、児童に野菜を食べなければならない理由を考えさせた。

 栄養教諭は学校の食育の推進役として二〇〇五年度に国が制度化。〇七度から採用を始めた広島県では、まだ十人しかいない。六中学校区を「食育推進地域」に指定している広島市には三人。皆実小のほか比治山小(南区)、伴中(安佐南区)だけに配置されているのが実情だ。

 栗本教諭はもともと栄養士として二〇〇〇年に皆実小に赴任し、栄養教諭の資格を取得した。〇四年度から三年間、国の食育モデル地域に指定された南区の中心校となった皆実小で指導に力を入れ、食育指導計画も中心となって作成。例えば理科では体の消化の仕組み、社会なら食糧問題などがテーマの授業を食育と関連づけ、担任教諭と協力して指導している。

 「野菜の好き嫌いをなくすには、子どもに野菜そのものへの関心を持たせることが大切」。ニンジンの皮むきもこれが狙いだ。

 ただ、食育は生活習慣と密接なテーマ。栗本教諭には「はしを正しく持てなかったり、給食を残さず食べようという意欲が感じられなかったりする子どもが増えた」との実感もある。

 ▽手探りの段階

 学校の指導だけでは限界があるため、保護者の関心を高めようと昨年度から毎月一回、「食育通信」を発行する。授業の様子などを伝え、家庭でのサポートを促す。近隣の小中学校の保護者を対象にした食育講演会も昨年十月に開催。手軽にできる朝食メニューを募集し、三月にはレシピ集をまとめた。

 地道な取り組みの成果は出始めた。昨年五月に12%だった皆実小五年の朝食欠食率は、昨年十二月には9%に低下。学校給食の食べ残しの量を示す「残食率」は〇四年度の6・0%から〇七年度には3・2%とほぼ半減したという。

 ただ、多くの学校現場で食育はまだ手探りの段階だ。市教委は市食育推進計画に基づき本年度から、小学校に年間指導計画の作成を求めているが、市内の小学校の食育担当教員(42)は「これから指導に適した資料を探さなければ」と漏らす。

 具体的なアプローチは始まったばかり。市教委は「新しい取り組みを始めるのではなく、これまで単発だった内容の再編成を」とし、今月中にも食育の手引を小学校に配布する予定。学校現場の戸惑い解消に懸命となっている。


クリック 栄養教諭 給食の栄養管理に加え、教科や学校行事を通じた食育指導を担当。教職員や家庭との連携、指導計画の取りまとめなどで中心的役割を担う。学校に3年在職した栄養職員が、大学の授業や都道府県教委の認定講習で一定の単位を取得すれば栄養教諭に移行できる。2008年4月1日現在、すべての都道府県に計1886人が配置されている。
広島市の食育推進計画 2007年に国がまとめた食育推進基本計画に基づいて08年3月に策定。10年度までに「毎日朝食を食べる小中学生の割合100%」「適正食事量を理解する20歳以上の割合80%」など10項目の数値目標を掲げ、学校や家庭の取り組み、重点事業を定めている。

松原知子・広島文教女子大教授に聞く
保護者も関心を持って

 広島市食育推進会議の副会長を務める広島文教女子大の松原知子教授(64)=公衆栄養学=に、食育の課題や方向性を聞いた。

 ―なぜ学校で食育なのでしょうか。

 健康的な生活習慣は子どものときに身に付く。どんな物を食べればよいのか「選食」する知識と実践力が大事だ。家庭では出さない物も学校の給食を通して食べられるようになる。朝食を食べる子と食べない子では学力、体力の差も顕著だ。

 ―具体的にはどう実践すればよいのですか。

 これまで学年や学級でばらばらに行ってきた食育を体系的にまとめることだ。全校や学年別の年間目標を立てれば、どんな力を身に付けさせるのかが明確になり、教員同士で問題意識も共有できる。

 ―教育現場に変化は起きていますか。

 教員の側に「何をしたらいいか」との悩みがあるのが実情。しかし先進的に取り組んできたモデル校では、教材をよく研究しているし、子どもが何をどう食べているか関心を持つようになっている。

 食育は本来、マナーや感謝の心なども含む人間教育で、長期的な視点が必要。はっきりした効果が表れにくく、どう評価していくのかが課題となる。

 ―ならば「朝食摂取100%」などと短期目標を立てる手法は矛盾しませんか。各家庭の事情もあります。

 まずは、改善の余地のある家庭から生活習慣を見直してもらうことが大切。目標設定は保護者の関心に結びつけて啓発することに意味はある。そうした積み重ねを続けるしかない。今までは実態把握さえ、ちゃんとできていなかったのだから。

(2008.5.19)


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