中国新聞


いま、学童保育は <下>
迎え早まる「小1の壁」
開設時間の延長を切望


 「遅くなりました」。広島市中区の中心部にある袋町児童館。留守家庭子ども会が終わる午後六時半が近づくと、親たちが駆け込んでくる。

 小学一年の長女を迎えに来た派遣社員の女性(35)は、近くの会社で午後六時まで勤務する。市は四月から平日の開設を一時間延長し、午後六時半までとした。親の要望で実現した。女性は「助かります」と息をついた。

 市内の保育園は午後七、八時まで延長があるにもかかわらず、小学校に入学したとたん、迎え時間が早まって仕事と子育ての両立が困難になる。そんな「小一の壁」に多くの親が直面してきた。

 三年前、安芸区で下校中の女児が殺害された。事件後、午後五時以降に児童が帰宅する際は、大半が迎えを求めるようにもなった。

 「母親仲間で泣く泣く仕事を辞めた人もいた」と派遣社員の女性(30)は言う。独身で小学二年の長女を預けて働く。残業が続き午後六時半には迎えに行けない。やむを得ず、児童館からの集団下校に合わせ午後五時に帰宅させているが「女の子だし、一人での留守番は心配」と悩む。

 子育て世代は長時間労働やサービス残業が増える傾向にある。育児のための勤務時間短縮制度を設ける企業は全国で約四割になったが、対象は未就学児が中心。小学低学年に適用する企業は4・7%にすぎない。

 市が三年前に創設した、育児を助ける有償ボランティアを紹介する「市ファミリーサポートセンター」。乳幼児の母親の支援を想定したが、実際は留守家庭子ども会からの迎えやその後の保育の依頼が集中した。昨年度も八千七百件中、三千七百件を占めた。

 親の帰宅まで子どもを世話する独自の動きも出始めた。安佐北区の亀崎児童館では住民十九人が交代で、指導員から引き継いで午後七時半まで遊び相手となる。「団地は高齢化し、人通りも少ない。一人での帰宅は危険」と吉村栄夫代表(66)。会費は保険代に使う月額千円。いま児童四人が利用する。

 中区の児童館の中には、保護者の依頼を受けた特定非営利活動法人(NPO法人)が、留守家庭子ども会の終了後一時間、児童を預かる試みもある。

 こうした実態を踏まえ国は本年度、自治体にさらなる「延長」を促す補助制度を始めた。小学二年の長女の迎えをベビーシッターに依頼している中区の会社員(48)は「有料化でも構わない。保育園並みの午後八時まで延長を」と切望する。

 市の総合的放課後対策あり方検討委員会で委員長を務めた、小池源吾広島大大学院教授は主張する。「地域の力を活用したり、企業が親を早く帰宅させる責任を負ったりするなど、行政を含めた社会全体が切実にこの問題を考えるべきだ」

 そうでないと、子どもが救われない。(西村文、新宅愛)


クリック 学童保育の延長 全国の政令指定都市17市のうち、さいたま市と横浜市が放課後児童クラブを午後7時まで開設している。両市とも有料。公設・公営の学童保育を無料で実施しているのは政令市では広島市だけ。東京都などの大都市部では午後9―10時ごろまで児童を預かる民間の学童保育業者もある。

(2008.5.22)


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