中国新聞


体力低下 遊んで解消
広島の安北小、休憩時間エクササイズ


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教職員が手作りした的にめがけて、ボールを投げる安北小の児童

 子どもの体力低下が指摘されている。塾通いやテレビゲームの普及などにより、屋外で遊ぶ機会が減ったことが一因という。走ったり、投げたりといった基礎的な体力をどう養うか。広島市の体力づくり推進校の一つで、休み時間を利用した運動や外遊びに力を入れる安佐南区の安北小(六百四十八人)を訪ねた。(見田崇志)

 「さあみんな、三分間エクササイズの時間です」―。校庭に響く放送が合図となり、児童たちがドッジボールや鬼ごっこを一斉に中断した。

 流れ始める軽快なメロディー。「先生も一緒にしよう」。居合わせた野村英明校長(58)を児童たちが取り囲み、全身のひねりや、もも上げ、つま先立ちなどの動作を組み合わせたオリジナルの体操を始めた。

 三時間目の授業を控えた二十分間の休憩を締めくくる日常の光景である。教室に残って授業を待つ児童はほとんどいない。「すっかり変わりました」。野村校長は五年前の赴任当時を振り返り、目を細めた。

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 ▽全国平均下回る

 東区の小学校の教頭から、安北小の校長となった二〇〇三年四月。休憩中のグラウンドを眺めても「サッカーやひなたぼっこの児童がいる程度」。教室で過ごす子どもたちが多かったという。

 同小は団地が広がる傾斜地の高台にあり、放課後の遊び場は小さな公園くらい。ソフトボール投げ、五十メートル走など八種目を学年、男女別で文部科学省が毎年度実施する体力テストの成績も、ほとんどで全国平均を下回っていた。

 「遊びの習慣が身に付いていない」。体育専門の野村校長は、そう直感し、まず児童の生活実態の把握に手を付ける。

 そして〇五年度からは「投」「走」などの基本動作を体育の授業で重点指導するよう教員たちに指示。遊びとの連動を狙い、教員手作りの約六十センチ四方の木製板を校庭の石垣に取り付け、児童がゴムボールを命中させて楽しめるようにしたり、毎週木曜の始業前に全校児童が校庭でランニングや縄跳びをする活動を始めたりした。〇七年度には休憩中の三分間エクササイズもメニューに追加。地道な取り組みが続く。

 子どもの体力が落ちてきた―。全国の教育関係者に危機感が広がり始めたのは、一九八〇年代半ばという。

 文科省の調査によると、例えばソフトボール投げでは、十一歳男子の全国平均は〇六年度で二九・五メートル。親の世代にあたる一九七二年度からの三十四年間で五・〇メートル短縮。広島県平均もほぼ同じ数値をたどる。

 全国の十一歳男子で体育の授業以外で週に三日以上運動すると答えたのは〇六年度で57・3%と、七二年度から21・6ポイント低下。文科省は「塾通いや室内遊びが増える一方、空き地などの遊び場は減少した。少子化で遊び仲間が少なくなったことの影響もある」と説明する。

 そして近年、「けがをする児童が増えた」との問題意識が教員の間に強まるなど、学力向上とともに体力づくりの必要性が再認識され始めたという。

 ▽日々の運動記入

 広島市教委は、縄跳びやジョギングなど日々の運動量を点数化して記入する体力づくりのハンドブックを作製し、〇六年度から小学四―六年生全員に配布。一万点に達した児童を表彰する。文科省もすべての小学五年と中学二年を対象とする初の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」を進めており、今後の改善策に役立てる構えだ。

 「児童たちは変わった」と校長が自己分析する安北小では、その変化が少しずつ数字に表れてきた。

 体力テストでは、種目によって全国平均を上回る学年も増えてきた。〇四年一―三月に一日平均八・九人だった風邪の欠席者は〇八年同期で六・二人。この間に児童数は約百二十人増えたが、風邪で寝込む子は減った。

 同小では給食後の通常は二十五分間の休憩を毎月二回、四十五分間に延長する。保健主事の大林泰啓教諭(37)は、「ろくむし」など子どものころの遊びを教えることもある。「遊び方が分かれば、みんな喜んでやりますよ」。校庭が役割を増している。


クリック 全国体力・運動能力、運動習慣等調査 全国の国公私立の小学5年、中学2年生の全員を対象に文部科学省が4―7月にかけて実施している。毎年度の体力テストは抽出調査だが、全員を対象とするのは初めて。握力や立ち幅跳び、50メートル走など体力テストと同じ8種目で、睡眠時間や運動習慣なども合わせて聞く。内容分析や都道府県別の平均値などが公表される。

(2008.6.2)


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