中国新聞


高め合う男女共修
「学びの共同体づくり」公開授業研究会 広島の祇園東中


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男女一緒に新体操の演技づくりに取り組む生徒たち

 学校改革「学びの共同体づくり」を提唱する佐藤学・東京大大学院教授(57)を招いた公開授業研究会が、広島市安佐南区の祇園東中(光友芳文校長)であった。教育関係者ら約170人とともに、広島県内の中学では珍しい男女合同の体育の授業を見学。4年前から共同体づくりを実践している同校の教員たちの意見交換の場にも立ち会い、「子どもの学び合い」をキーワードに全国に広がる改革のポイントをみた。

 ▽新体操題材 練習や討論

 生徒たちの「学び合い」を引き出す男女混合のグループ学習は「学びの共同体づくり」では定番の手法だが、体育の授業ではあまりお目にかかれないという。この日の公開授業のテーマは「新体操の演技づくり」。二年一組の男女三十三人が体育館で四グループに分かれて活動した。

 ビデオの見本演技を観賞した生徒たちはグループ別にフロアの四カ所に分散。一つのグループの試技を別の一グループが見学し、残る二グループはそれぞれ演技の練習や討論をする―との手法で授業は進んだ。

 ボールとフープを使った演技の内容や構成をめぐって男子と女子が激しく意見を言い合ったり、息を合わせてレベルの高い技に挑戦したり。マット上の活気が見学者にも伝わってきた。

 中学校の体育は、体格や体力の差から男女別の授業が主流だが、祇園東中では「男女が互いに高め合う効果」を狙い、本年度から二年生の五クラスで「共修」を試行している。

 「男女が一緒だと活動的になる。体育の授業で学び合いをどう生み出すか悩んできたが、一つのかたちが見えてきた」。授業を担当した関川昭彦教諭(49)は手応えを口にした。

 生徒の連携 教員ら実感

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教員たちが意見を交わした公開校内研修の輪に入り、講評する佐藤教授(左端)

 体育の授業に続き、校内研修も公開された。教員を「つなぎ役」と位置付ける学びの共同体づくりでは、教え方より子どもの学び方を重視する。どうすればよりよい授業になるのか―。同校の教員約三十人が、授業で注目したグループの活動ぶりを振り返りながら語り合った。

 二年一組の担任の樽谷里佳教諭(37)によると、この日は普段は学校を休みがちなA君とB君がそろって出席。一部の科目の授業に通ってくる特別支援学級のC君もいて、朝から生徒はそわそわしていたという。

 A君が入ったグループに注目した教諭の一人は「A君が久しぶりに来たとは思えないほど、自然だった」と発言。別の教諭は「A君は最初はどうしていいか分からない感じだった。でも、グループのリーダーたちに助言を求めだし、みんなで組体操の技を成功させると初めて自然な笑顔をみせた」。その変化に目を見張った。

 別のグループで活動したB君の姿を追った教諭もいた。「自分から声を掛けられたのは一人の男子だけ。でも、最後に別の男子から『次も来いよ』と言われ、『うん、来るよ』ときっぱり答えた」と報告し、「学校に来る目標ができたのではないか」と顔をほころばせた。

 特別支援学級でC君を受け持つ教諭は、二年一組で授業を受けることを嫌がっていたC君が、生徒たちからもらった絵手紙に気分を良くしたとのエピソードを紹介。この日の授業には「(C君と幼なじみの)男子がうまく乗せていた。C君の問い掛けが否定された場面も一度あったが、そばにいた女子がなだめてソフトな空気をつくっていた」との感想を述べた。

 このグループの活動には、別の教諭から「C君を中心にできることを考えるうちに、全員の理解が深まった」「ちょっとした場面で交わす一言一言が大事」との発言もあった。

 残るもう一つのグループに視線を注いだ教員のうちの一人は「男女間の溝を感じた。でも、これじゃいけないと思ったのか、リーダーの男子が突然、男女交互に並んで話そうと言い出し、うまくかみ合うようになった」。別の一人は「組体操で盛り上がる別のグループの試技を見て、『おれらは新体操がしたい』と基本資料に立ち戻った姿が印象的だった」と、教材の大切さを実感した様子だった。

 一方、「高校生の演技のビデオを見た直後の生徒に感じられた『ビシッと決めたい』という意識が、授業が進むにつれて薄れた」「授業の課題は何か、何を達成したいのか、をもっと明確にするべきだった」との指摘や問題提起もあった。(松本大典)


 ▽基本技の指導大切 佐藤・東京大教授講評

 授業の中で三十三人、三十三通りの学びのストーリーがあり、それを読み取った教員たちも見事だった。ただ、物足りなさも感じた。子どもだけの学び合いでは限界もある。演技をそろえるにはどうすればいいかもっと指導があっていいし、体育のような技能教科では基本技の習得も織り交ぜたい。

 グループ学習の目的は、底上げとジャンプアップ。授業の時間、内容よりも教師の教養が鍵となる。教科書の向こう側を教えられるようになってほしい。

 体育の男女共修は、積極的に導入している県もある。技能差がネックなら、試合だけ分ければいい。数年前の学生の卒論で、女子の体育嫌いは、運動能力とは直接関係がないとの調査結果があった。嫌なのはコンプレックスをさらすこと。異性より同性のまなざしが気になるのだという。

 それを踏まえてこの日の授業を振り返ると、女子の明るさが際立った。男子はその雰囲気で楽しくなる。男女共修の意義をそんな風に見いだせないか。

(2008.7.21)


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