中国新聞


商工会が率先 子ども起業塾
コスト意識や仕入れ方指南


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大和商工会青年部のメンバーが見守る中、クッキー作りに取り組む大和中生徒

 子どもたちに起業家になるための知識やセンスを身に付けさせようと、中国地方の商工会などが育成事業に力を入れている。少子化や市町村合併などで地域経済の先細りが危ぶまれる中、次代の担い手を自ら育てる試みだ。模擬会社をつくり、地元中学生との事業に取り組む光市の大和商工会青年部の活動をみた。(見田崇志)

 同市岩田地区にある大和公民館。八月下旬、調理室は甘酸っぱい香りに包まれていた。大和中の生徒二十一人が、近くの農園で採れたブルーベリーのジャムやマドレーヌなど五種類の菓子を試作をした。応援に駆け付けたパティシエらの指導を受けながら、焦がしたり、形を崩したりしないよう慎重にこしらえた。

 生徒たちは、昨年発足した模擬会社「石城(いわき)社中」の「社員」。菓子は十一月の「ふるさとまつり」で販売する予定だ。「ブルーベリーの味をもっと効かせたほうがいいかも」「クッキーの形を増やせば面白いと思う」。試食後の会議も真剣な意見が飛び交う。チラシ作りなど、まつりに向けたPR戦略も生徒が練る計画だ。

 模擬会社は商工会青年部が次世代の後継者育成を目指して設立した。本年度は光商工会議所青年部もメンバーを派遣するなど協力している。

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 会社形式にしたのは、チャレンジ精神や行動力のほか、経営に欠かせないコスト意識を養うため。生徒には決算報告もしてもらうつもりだ。発起人で商工会青年部の寺崎益朗部長(40)は「活動を通じて、地元への関心を高めてもらいたい」と思いを語る。

 岩田地区を含む旧大和町は二〇〇四年十月に光市と合併し、旧町役場は支所になった。周辺部は取り残されるのではという危機感が高まる中、「元気な姿を発信したいという意地がある」と寺崎部長。「子どもたちにとっても大人と協働した経験があれば、将来、地元で働きたいと考えてくれるかもしれない」と期待する。

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 次代への「種まき」は、中国地方の各地で進んでいる。広島県坂町の坂町商工会も、〇四年度に「キッズ起業家育成塾」を設立した。年に二回、大型商業施設内である「サンデーマーケット(日曜市)」に小学五、六年生三十人が出店し、商工会が開発した特産品などを販売している。

 事前学習で原価計算や仕入れ方を学び、呉大学の協力のもと、チラシ作りをするほか、収益は児童に分配する。運営委員長の木村雄一理事(43)は「地域内外の人たちに活動をアピールする場としても定着してきた」と手応えを感じている。

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 山口市や旧秋穂町など山口県内六つの商工会青年部などでつくる山口県央商工青年部交友会も、毎年冬に「チャレンジショップ」を開催。小学五、六年の五十人が「会社」の計画書を練り、交友会から事業に必要な融資を受ける徹底ぶりだ。

 学校や商工会の起業家教育の活動事例集をまとめた中国経済産業局は「商工会同士の合併が進む中、後継者を育てる事業の柱になっている」とみる。

 昨年度、「チャレンジショップ」の実行委員長を務めた秋穂商工会の山下篤志さん(34)は「あいさつや返事をするのも商売の基本」と強調する。きちんとできない子をしかることもあるという。商工会の取り組みはコミュニケーションを学ぶ「地域の学校」にもなっている。

(2008.9.15)


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