中国新聞


「尋常小算術」色あせぬ魅力
復刻版教科書に脚光


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イラストを多用した「尋常小学算術」の復刻版

 約七十年前に全国的に使われていた算数の教科書が再び、脚光を浴びている。戦前の一九三五年から六年間、国定教科書だった「尋常小学算術」。昨秋、復刻版が刊行され、広島大などの教育現場で浸透し始めた。

 「一年上巻」は子どもが玉入れをする絵で始まる。ほかのページもチョウやカエル、風船…。一切の文字をなくし、オールカラーの愛らしい絵だけで数の概念をとらえさせる。

 他の学年用もユニークだ。電車賃の計算、大木までの距離の測り方など、実生活に則した事象から数理の法則を学ばせる。人口の推移のグラフから「どんなことが分かるか」と問いかけるなど、思考力にも働き掛ける。

 島根県出身の旧文部省図書監修官、塩野直道氏が監修した。モスグリーンの装丁から「緑表紙」と呼ばれ、当時は国際的な学会でも高い評価を受けたという。昨秋、教科書会社の啓林館(大阪市)が三千部を復刊し、すでに千部を売り上げた。

 広島大大学院教育学研究科の岩崎秀樹教授も、講義の教材として活用する。「いまだ、緑表紙を超える教科書は出ていない。子どもに身近な生活を背景にしながらも、極めて高度な数理思想をはぐくむ問題に富んでいる」と評価する。近年、低下が指摘されている子どもの「読解力」や「応用力」を培うのにも適しているという。

 学年ごとに上下二冊と教員用の解説書(抜粋)一冊の十三冊セットで、いずれもA5判。税込み九千五百円。啓林館広島支社Tel082(261)7246。(田中美千子)

(2008.9.15)


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