中国新聞


「中1ギャップ」を救え
小6に部活体験/人間関係サポート


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 「中一ギャップ」という言葉がある。中学に進んだが、小学校との環境の違いになじめず、いじめや不登校が急増する―という現象だ。子どもが感じる「ギャップ」をいかに解消し、新しい学校生活に溶け込ませるか。処方せんは「小中連携」と「人間関係づくり」にある。広島市内の取り組みをみた。(木ノ元陽子)

 夏休み。安佐南区の祇園中学校に、校区内の六年生約三百人が集まった。部活体験を通じて、小中学生の交流を図ろうと、中学校側が招待した。敷居の高さを感じさせてはならない。楽しい雰囲気で小学生を迎えようと、生徒会に運営を任せた。

 緊張をほぐす

 体育館に集まった小学生に、生徒会副会長の三年、河野未有さん(15)が語りかけた。「みなさんが、早く中学生になりたいと思えるよう私たちもがんばるので、よろしくお願いします」。手もとのメモには「さわやかに わらって!」。自分に言い聞かせる言葉があった。

 中学から始まる部活動。厳しい練習や上級生との人間関係が「中一ギャップ」を招きかねない。この交流会では見学ではなく体験に重点を置いた。卓球部ではマンツーマンでフォームを教え、美術部では作品も手掛けた。ふれあいの中で、小学生の緊張した顔が次第にほぐれていく。

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祇園中であった小中学生の交流会。剣道部では一緒に稽古に励み、美術部では中学生の指導で作品も手掛けた。「先輩がやさしくて、うれしかった」。小学生たちの声も弾んでいた

 「自分も入学前は不安だった。上級生もうまくリードしていこうという気持ちが大切なんですね」と河野さん。同校の中野正巳校長は「どうすれば下級生の緊張をほぐし、コミュニケーションを交わせるか。中学生にとっても、いろいろ考える中で上級生としての自覚を備える場になった」と評価する。

 二〇〇七年度、広島県内の公立小中学校の不登校児童生徒数を見ると―。小学六年が二百四十人なのに対し、中学一年は六百四十二人に跳ね上がる。いじめの認知件数も同じ傾向で、小学六年が七十件、中学一年になると二百四十三件に増える。この「ギャップ」の原因は何なのか。

 小6担任参観

 「学級担任制から教科担任制になったり、部活動が始まったり、複数の小学校から集まってきたり…。人間関係がより複雑化・多様化する。不安を抱えやすくなる子どもたちのストレスの表れともいえます」。広島市教委指導第二課の主任指導主事、中司博之さんは説明する。

 市では〇五年度から全小中学校に一人ずつ「不登校対応担当教員」を校内に位置づけ、小中連携の連絡調整役となって「中一ギャップ」対策に取り組む。例えば、中学一年の授業を小学六年時の担任が参観したり、小中の教師が一緒に朝のあいさつ運動に取り組んだり…。同時に市教委主催の研修会を設け、不登校の実態分析や実践発表を通じて情報を共有している。

 教師の「小中連携」と並行して必要なのが、子どものコミュニケーション能力の向上だ。市が力を入れているのが「子どもの人間関係づくり推進プログラム」。昨年十月から小中学校の指定校十校で実践を研究。授業にグループワークや相談活動、異なる学年とのピア・サポート的な交流などを盛り込む。来年度からは全校へ普及させる予定だ。

 「自分の気持ちを伝えたり、人の声に耳を傾けたり…。人間関係を築くスキルを育て、発揮できる場を学校生活の中でたくさん用意していくことが必要」と中司さん。人がつながりあう喜び、自分は人の役に立っているという手ごたえ―。そんな体験を小学生のころから積み重ねることが「中一ギャップ」を防ぐ道筋になる。

(2008.9.22)


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