中国新聞


科学塾で培う「生きた力」
考えて実験 理論も習得


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「ほっぺたがちぎれそう」と歓声を上げる児童。久家さん(右端)もうれしそうだ

 広島市西区に、全国的にも珍しい科学だけを教える私塾がある。指導者は、元県立高教頭で理科教諭として約三十年のキャリアを持つ久家光雄さん(54)。定年前に職を辞し、六月に開校した。実験やフィールドワークを通じ、科学の不思議に胸躍らせてほしい。きっと「生きた力」が身に付くはず―。授業から、そんな信念が伝わってきた。(田中美千子)

 ▽広島の元理科教諭 久家さん開校

 「すごい」「何でこうなるん?」。JR西広島駅にほど近いビルの二階。「科学創造塾」には、子どもの歓声が飛び交っていた。  小学一、二年のクラス。五十分の授業時間で二つの実験をした。初めは、湯を出し入れして真空状態にしたフラスコの口を、手のひらやほおでふさぐ実験だ。「手が吸い込まれる!」。目を丸くする子どもたち。「しめた」とばかり、久家さんの顔も緩む。

 最初は好奇心から

 次は二つの紙コップを細長い風船でつなぎ「電話」を作った。糸電話と同じ仕組み。児童の目がまた輝きを増した。なぜ、こんな現象が起きるのか―。小学校低学年には難しすぎる理論。が、久家さんは「好奇心をくすぐる。それだけでいい」と強調する。「科学の入り口は実は生活の中にあふれている。そこに導くことから始めたい」

 上級生には理論も丁寧に教えるが、やはり実験を主軸にする。一度にたくさんの生徒を受け持ち、限られた時間で受験に必要な知識を教え込む―。そんな制約のある学校現場に、ジレンマを抱えてきたからだ。

 「もちろん受験用の知識も大事だが、『暗記して終わり』になってはダメ」と久家さん。「なぜこうなるのか」と思考を働かせながら実験し、さらに習得した理論を活用する力を付けるのが目標という。そんな授業をかなえたくて、学校を飛び出した。

 「教え方に工夫を」

 子どもの「理科離れ」が指摘される中、国は二〇〇七年度から小学五、六年生を対象に授業を補助する「理科支援員」を配置。新学習指導要領では授業数を増やす方針も打ち出すなど、てこ入れを図る。久家さんは、この流れを歓迎しながらも「本来、この教科を嫌いな子などいない。教え方の工夫が大切」。授業内容の充実に期待を掛ける。

 評判は広まり、塾生は八十人に膨らんだ。「教え方を学びたい」と通う学校教諭も。廿日市市の小学二年山本愛梨ちゃん(8)は「実験を全部、自分でやらせてくれる」と満足そうだ。八歳の長男が通う南区の桑原牧子さん(37)も「息子が習った事を家でうれしそうに話す。確実に興味の幅が広がっているようです」と喜ぶ。

 科学創造塾Tel070(5520)4331。

(2008.10.27)


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