中国新聞


全国学力テスト 丁寧な分析、何より大切
寺脇研 京都造形芸術大教授


 全国学力テストの結果公表をめぐる議論がかまびすしい。

 もともと、わざわざ巨費を投じて実施する必要があるのかどうか疑わしい事業である。ましてや、実施を提唱した元文部科学相が「日教組が強いところは学力が低いんじゃないか」などと、調査の目的について口走ってはね。子どもの学力は、各学校がしっかり把握してその問題点を解決すればいい。また親も、わが子の力がついているかどうか、日常のふれあいの中で掌握する責任がある。

 とはいえ、実施した以上は巨額の経費に見合う活用の仕方を考えなければなるまい。結果を今後の教育に生かさなければ、無駄遣いに終わる。だから公表? 学校ごと、クラスごとの成績を比べて学校や教師を競争させる? そうじゃない。落ち着いて考えてください。テストというものは、本来よそと比べるのを第一義にはしていない。

 受ける本人の力を把握し、得意なところ足りないところを明らかにするのが目的である。どの問題ができたのか、どれを間違えたのか、ひとりひとりの結果をていねいに分析するのが何より大切だ。それをそれぞれの生徒の保護者に伝えれば事足りる。

 もちろん、教師の側も自分の担当するクラスの成績を見て教育のやり方を省みなければならないし、学校全体でもそれは必要だ。だが他のクラスや学校と比べることはない。もし比較するなら、同じ学校の過去の成績との間だろう。昨年に比べ今年はどうなのかチェックすることによって、教育方法の改善を図ることができる。そのためには毎年同じ問題の方がいいのだ。他と比較しないなら、不正で成績を上げようとする者も出ないから、前と同じ問題でも不正な事前準備を恐れることはない。

 どうしても結果を外部に公表したいなら、大阪府の橋下徹知事の提言するように市町村段階で行えばいい。実は、学力テストの際には家庭や地域の教育力についても調査している。当然この部分も公表して、家庭や地域のあり方を考える材料にしてもらえばいいのである。

(2008.10.27)


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