中国新聞


論理伝えてこそ実力
思考・表現力培う「ことば科」 県立広島中


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矢原教諭(左から3人目)の指導の下、議論する生徒

 生徒の論理的な思考や表現力の向上のため、独自教科「ことば科」を設けている東広島市の広島県立広島中。担当の一人、矢原豊祥教諭(41)が子どもの人間性育成に貢献したとして「博報賞」(博報児童教育振興会主催)に選ばれ、十四日に表彰を受けた。専門の国語にとどまらず、数学や理科などの素材を活用した取り組みをのぞいた。(見田崇志)

 「欠けた銅鏡の一部が発掘された。元の円形に復元しよう」―。十月中旬、一年三組の授業の問題だ。数学的な知識を応用しながら考え、論理的な表現力を養うのが狙い。授業は数学の出張幸雄教諭(44)と二人で進めた。

 この問題の鍵は、円の中心を探すという方針を見いだせるかどうか。まずは一人一人で考える。

 出張教諭から、これまでの授業を踏まえたアドバイスを受けるが、なかなかポイントに行き着けない生徒もいる。「それぞれが考えたことを話し合って」。約十分後、矢原教諭がグループ討議を指示した。

 生徒は机を四人一組に並べ替えた。銅鏡が書いてあるプリントに線を引いたり、コンパスをあてたりしながら議論を交わしていく。「大体このへんが中心かな」「プリントを半分に折ってみれば」―。そうした意見には「それじゃ根拠のある説明にはならない」と別の生徒から、すかさずチェックが入った。

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 「他人も納得できるよう、論理的に伝えてこそ『理解できた』と言える」と矢原教諭。そう意識付けるため、自分の意見や考えを発表し合うグループ討議は欠かさない。

 矢原教諭が思考、表現力の育成に力を入れ始めたのは約十年前。教員の問いに「ビミョー」とだけ答える子どものコミュニケーションが問題視されるようになったのがきっかけの一つだ。

 「相手ときちんとやりとりできる言葉を考えさせよう」と授業の実践事例や論文を研究した。作文や発表を通じて「なぜそう思うのか」「具体例と主張がかみ合っているか」などを重視してきた。

 二〇〇四年度、県立広島高との中高一貫校として開校した当時から、中学校でことば科の前身「ことば」を担当。文部科学省の研究開発校指定を受け、昨年度から必修科目とした「ことば科」を引き続き受け持つ。

 数学のほか理科、社会の教諭ともチームティーチングを展開する。社会科を素材にした授業では、人口統計のグラフから少子高齢化の傾向を読み取ったり、素材が理科の授業では、顕微鏡で拡大した体の一部から、どんな生物かを探ったり…。いずれも自ら考え、議論を通じて結論を導く。

 「人の話を聞くのは発見があるし、自分も相手にどう説明するか考えるようになった」と、円の復元方法について発表した藤坂真裕美さん(13)。矢原教諭は、生徒同士で作文を添削するなど「表現力を磨きあう姿が日常的にみられる」という。

 取り組みから四年。生徒たちには、自分が「分かる」だけでなく、相手に「理解させる」力が身に付いてきている。

(2008.11.17)


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