中国新聞


武道必修 戸惑う中学
2012年開始 剣道・柔道・相撲から選択


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面打ちの練習をする高取北中の生徒。渕上さん(左から2人目)と田中校長(左端)が手本を示す

 二〇一二年から、武道教育が中学校の体育で男女を問わず必修になる。学校は剣道、柔道、相撲のいずれかを選ぶ仕組み。現在、男子だけに柔道や剣道を導入する学校は多いが、女子はわずか。指導する教諭の力量アップや施設整備など課題も多く、教育現場に戸惑いが出始めている。(田中美千子)

 ▽指導・設備 態勢づくり急務

 広島市安佐南区の高取北中は、二年前から女子にも剣道を段階的に取り入れてきた。本年度からは全学年が年六時間ずつ学ぶ。

 二年生女子の授業。武道場に体操服姿の生徒が駆け込んできた。手際よく防具をつける。「黙想」。体育係の号令で目を閉じた。きっちり時間通りに授業が始まり、どの生徒も堂々と竹刀を振るっていた。

 三人の指導者が、最多で四十人を見守る。リード役は近所の市剣道連盟の渕上文雄さん(65)が務める。指導に加わるのが、田中祥通校長(59)。担当教科は技術だが、剣道歴は四十年余り。体育教諭は、声掛けなど指導補助に回る。

 武道教育に外部講師を招く市立校はほかにない。きめ細かい指導を目的に男子に導入した七年前から始めた。田中校長は「他の教科も含め、生徒が授業へ臨む態度がまじめになった。五年前の着任時に感じた『荒れ』の兆候も消えた」と効用を自負する。

 「自信持てない」

 一方で、必修化への不安は市立校に根強い。体育は一部の小規模校を除いて男女別に学び、それぞれ同性の教諭が指導についている。現在は二、三年で球技、ダンス、武道の三領域から二つを選ぶ制度で、男子は「武道と球技」、女子は「ダンスと球技」の組み合わせが大半。市立校六十四校中、女子にも柔道または剣道を取り入れるのは三校だけだ。

 こうした現状が一変するのが、国が三月告示した小中学校の学習指導要領。一二年からは、武道とダンスは中学一、二年でいずれも一回は履修させることを明記した。「豊かなスポーツライフの実現に向け、多くの領域を体験させる」「伝統文化に触れさせる」などが理由。授業時間など指導のあり方は各校に委ねる。

 「自信が持てない」。市立中の女性教諭は打ち明ける。指導歴は二十年以上だが、大学時代は武道が必修科目ではなかった。「未知の分野」という。国は指導用の解説書を配る予定だが、この教諭は「何をどう学ばせるのか、理念を分かりやすく示すべきだ。研修も必要」と訴える。新たにダンスを教えることになる男性教諭からも不安の声は漏れる。

 武道、ダンスの必修化が決まり、市教委は研修の拡充を検討中だ。併せて、高取北中のように地域人材や校内の経験者を登用するよう助言するが、全校に人材を確保できる見通しは立っていない。

 安全対策も必要

 設備の問題も残る。全国の中学校の武道場整備率は47%。国は道場や用具の整備費を二分の一まで補助する予定だが、残りは自治体の持ち出しが必要。広島県内のある町教委幹部は「指導要領を無視はできないが、負担が重すぎる」と悩む。

 施設は体育館で代用するにしても、用具の問題が残る。例えば剣道の防具は一着五万円が相場。男女で兼用する手もあるが、思春期の生徒の心情を考えると良案とは言えない。

 人材や環境が整わないまま教えれば、技のかけ方一つで大けがにつながる恐れもある。各教育委員会は十分に学校現場や武道関係者の意見を聞き、有効で安全な指導態勢づくりを進めてもらいたい。

(2008.11.24)


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