中国新聞


バーチャル 現実社会への回帰望む


 学校に来られなくなっている生徒が、自宅にこもり、自分にこもり始める。入学当初から急に休み始めた。ひと月ぐらいすると登校して来る。それを繰り返していた。

 学校で見かける限りは穏やかな表情でニコニコと過ごしている。何かを悩んでいる印象はない。何が彼の中で起こっているのか。自身もつかみきれていない様子だった。最近、悩む力が弱く見える子どもが、増えているように感じる。

 その生徒の唯一の「慰め」と呼ぶべきか、「逃避」と呼ぶべきか、いずれにしても向かった先は、パソコンのチャットだった。画面上での書き込みによる会話で同級生とつながっていた。貴重な社会の窓を持っていることは喜ばしいと、一見は思えたが…。

 同級生と夜中、ネット上のゲームを長時間楽しむ生活にも浸り始めた。三、四人と遊ぶのは、「一人で過ごさないでよい」という慰めになっているのだろう。しかし同級生には学校生活があり、日々は動いている。

 同級生たちは朝、起きられない。無理やり親に起こされて、登校するが、体調不良で保健室へやってくる。保健室でベッドに入った途端、爆睡(ばくすい)する。

 顔ぶれを見ると現在不登校になっている生徒の友人である。理由を確かめると夜中のゲーム会の話が聞けた。休日には休んでいる友人の家を訪ね、一人一人がパソコンやゲーム機の前に座って過ごすという。

 互いがしのぎ合ったり、けんかしたりはしない。これも異様な感じを受ける、友人がいないより良いと思うが、互いの生(なま)の感情を出して付き合うことを提案するも通じない。この状況からみんなを引き離す困難さを感じた。

 子どもたちには、もっと現実の世界を生きてほしいと思う。半面、現実社会は子供に、大人になることの夢や希望を与えているだろうか。誇れる社会をつくってゆくことが私たち大人の責任である。子どもたちがバーチャルの幻想世界にのみ込まれないように。(藤本比登美=島根大教授)

(2008.12.29)


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