中国新聞


子ども支援 新たな役割
スクールソーシャルワーカー


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広島市教委の横山指導主事(右端)と打ち合わせをする陶山さん(左から2人目)たちSSW

 児童、生徒の家庭環境を改善し、不登校などの解消を図るスクールソーシャルワーカー(SSW)が、本年度から、中国地方の15地域で67人配置された。地域や関係機関に協力を求め、総合的な支援体制づくりを進めるSSW。プライバシーへの配慮もあり、事態が深刻化するまで家庭への働き掛けをためらいがちだった教育現場で、新たな役割を担っている。(藤村潤平)

 ■糸口つかみ迅速に対応

 広島市教育委員会は昨年七月から、SSW三人を導入した。昨年末までの六カ月間で小中学校から派遣要請などがあった五十件に対応してきた。指導第二課の横山善規指導主事は「地域や関係機関と一体となって児童や生徒を取り巻く環境を変えていかなければ、改善が難しいケースがある」と説明し、次のような事例を挙げる。

 入浴した様子などがなく、清潔感が保てていない児童。朝食は教諭が弁当を作ってきて食べさせ、着ている服も校内で洗濯している。家庭訪問しても保護者に会えないが、やせ細っているわけではないし、虐待されている形跡もない―。

 ▽「常駐型」も

 学校職員やスクールカウンセラーだけでは対応しきれず、かといって明確なネグレクト(育児放棄)や暴力行為がないために児童相談所などの機関も介入しにくいケースだ。横山指導主事は「そこにSSWの出番がある」と必要性を強調する。

 市教委に連絡が入ると、SSWがまず学校を訪問する。情報収集した後、市教委とともに問題解決の糸口を探り、支援の方向性を検討。多方面にわたる地域の民生・児童委員や警察などの関係者が顔を合わせる会議を設ける役割を担う。

 社会福祉士、精神保健福祉士の資格を持つSSWの陶山博子さん(57)は「すぐに解決へ向かうケースは多くないが、糸口が見えた時には迅速に動けるように周囲の大人がつながっていることが大切。その環境づくりにも努める」と話す。

 SSWの形態には、広島市のように教委から現場に向かう「派遣型」のほかに、学校を拠点に活動する「常駐型」もある。

 安芸高田市教委は昨年七月から、SSWを市内の三小学校に一人ずつ配置。周辺の学校からの相談も受け付け、市全体をカバーする。SSWの名称は住民になじみやすいように「家庭教育支援員」とした。さらに市独自の取り組みとして勉強のつまずきをフォローする「学習補助員」も同じ三校に置く。

 市教委の大下典子学校教育担当課長は「不登校などの未然防止の観点からもSSWの役割は重い。学習補助員との相乗効果も図りたい」と意欲をみせる。

 ▽目的 明確に

 一方で、SSWを先行導入する地域には、役割分担をめぐる教員との摩擦や、雇用主である教育委員会のビジョンのあいまいさを懸念する声もある。二〇〇〇年度からSSWを導入した兵庫県赤穂市教委は、学校や自治会、警察などでつくる「サポート会議」を立ち上げ、地域ネットワークの充実でSSWを支援する体制を組んでいる。

 当初からSSWを務める武庫川女子大の半羽利美佳講師(39)は「漠然とSSWを配置しても現場は戸惑う。子どもたちのためにこんな環境をつくりたい、との明確な目的意識がなければ機能しない」と指摘している。


クリック スクールソーシャルワーカー 経済的な困窮や虐待など家庭で問題を抱える児童や生徒、その保護者を支援する専門職。社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士や元教員が就くケースが多い。文部科学省は本年度に調査研究事業として初めて15億円を予算化し、全国約140地域に配置されている。

(2009.1.12)


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