中国新聞


下級生と交流 高まる自尊心
小中一貫 先進地の呉にみる


 小中学校が連携し、九年間を見通した指導をする「小中一貫教育」が全国で増えている。今年に入り横浜市、大阪市が相次いで全市立校への導入を決めた。九年前から取り組む先進地呉市の実践を中心に利点や課題を探った。(田中美千子)

 ▽「ギャップ」なし 不登校減

 私服の小学生と制服の中学生が廊下を行き交う。広島県内初の小中一貫教育校「呉中央学園」。二河中、二河小、五番町小の三校が二〇〇〇―〇五年度、国のモデル校として一貫教育を推進。〇六年度は独自に試行し、〇七年度一つの学園になった。

 中一〜中三は「七―九年生」と呼び、九年間を通したカリキュラムを編成している。校舎は旧二河中で五年生以上、道路向かいの旧五番町小で四年生以下が学ぶ。一一年度には旧二河中と、隣接する旧二河小の敷地に校舎を集める。

 成果は数字にも表れている。市教委によると、旧二河中の不登校生徒は〇二年度が二十人だったが、〇七年度は五人まで減少。学力テストの結果も伸びているという。

 ▽合同で実験や劇

 十七日は六年生が、中学生に当たる七年生以上の部活動を体験した。吹奏楽部では、上級生が「班になってね」とリーダーシップを発揮。会話も弾んでいた。教諭陣は「異学年交流に慣れてますから」と胸を張る。

 授業には小中の枠を超えた交流の機会をふんだんに取り入れている。例えば、五―七年生向けの「中期選択授業」は年二十時間を設け、科学実験やミュージカル創作などに合同で取り組む。

 自分に厳しい評価を下しがちな思春期のこの年代にとって、異年齢交流は特に意義深いという。旧二河中時代から一貫教育を研究する二宮肇美教諭(49)は「後輩に頼られている実感が自尊感情を高める」と説明する。

 教諭の連携がスムーズな点も一貫校のメリットだ。選択授業や英会話(五―七年)などの一部授業は、小中の教諭がチームで指導する。小学校の教科を中学教諭が教えることもある。本年度は総勢三十五人の教諭のうち七人が小中の指導を兼務している。

 ▽発達に合わせる

 不登校の大きな要因になっているといわれる「中一ギャップ」は、中学校進学に伴う環境の激変によって起こる。手取り足取りの指導に慣れた子どもが、指導のスピードアップや課題の多さに戸惑い、なじめなくなるケースが目立つ。

 緊密に連携し、子どもを継続的に見守る一貫校では、より子どもの発達に合わせた指導ができる。二宮教諭は「教員の意識変革が、子どもの不安緩和に役立つ」という。

 県内では府中、廿日市両市にも一貫校があり、他の四市一町も導入を検討する。ただ、法的な位置付けはなく内容も手法もさまざまだ。国から教育課程の特例を受け新しい教科を導入する学校もあれば、学習指導要領の範囲内で工夫を凝らす学校もある。

 全市で進める場合、小中学校の場所や数が地域によって違う。小中の距離が離れているため、教員の行き来が頻繁にできない学校ができるなど、地域格差が生まれかねない。さらに「小学校では最高学年の六年生にとっては活躍の場面が減るのではないか」との指摘もある。

 中教審は新年度、小中一貫教育校の制度化について、先進地の成果や課題を基に検討を始めるが、先行きは不透明。当面は自治体ごとの模索が続く。

(2009.3.30)

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