中国新聞


広島県サポートファイル導入
保護者「子の道しるべに」


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ファイルを見る徳永さん(左)と阿部さん。「子どもの幸せを支えるツールにしたい」

 障害者の子どもに必要なケアや成長を保護者が記録するサポートファイルが本年度から、広島県内で導入される。わが子の障害をしっかり伝え、支援と将来の道しるべにしたい―。自閉症児や知的障害者の保護者の期待が高まっている。

 ▽「記録」記入・運用が課題

 「ようやく念願がかなった」。特定非営利活動法人(NPO法人)「広島自閉症協会」の阿部泉事務局長(42)=広島市安芸区=は喜ぶ。特別支援学校に通う長男(17)は知的障害を伴う自閉症で、コミュニケーションが苦手だ。考えや感情をうまく表せず、複雑な話の理解が難しい。

 学校や担任教師が変わる度に、性格やコミュニケーションの取り方について、説明を繰り返さざるを得なかった阿部さん。本当に相談したい長男の将来に時間が割けなかった。今後は、いろいろな基本情報をファイルに書き込み提示。その上で、より有意義な話し合いに臨むつもりだ。

 また、長男の状況を詳細に把握するのは、家族の中でもやはり阿部さんだ。「自分が世話ができなくなった時、家族も混乱すると思う。そのためにもちゃんとした『記録』が必要」と感じている。

 知的障害者の保護者たちでつくる「広島県手をつなぐ育成会」。長男に障害がある会員の徳永玲子さん(50)=呉市=は「病院や学校で何度も子どもの状態を聞かれると、責められているようで心がなえる」と、ファイルを歓迎。「自分が先に死んでも、『記録』を適切に使ってもらうことで、子どもはいきいきと暮らせるはず」

 広島県が作成したファイルに各市町が地域情報を加え、本年度中に希望者に配る。ただ、障害のある子どもを育てることに精いっぱいの保護者に記入の余裕があるか。関係機関がファイルを支援に生かせるか―。運用はこれからの課題だ。

 二〇〇四年度から同様の趣旨の「まつえしサポートファイル『だんだん』」を配る松江市。「成長がたどれる」「相談記録が残ってよい」との声の一方、「記入部分が多すぎる」「相談先にファイルが周知されておらず、提示しにくい」など、使いにくさを指摘する声も上がる。

 サポートファイルの場合、関係機関への周知徹底は、市町にも委ねられるため、自治体間に格差が生まれる恐れもある。

 広島自閉症協会は今後、会員の保護者を対象に、ファイルへの記入の仕方などを研修。「自治体の福祉担当者や学校も『書いてますか』『一緒に書こう』と声を掛けてほしい。ファイルを子どもたちのケアにつなげるのが何よりも大切なのだから」と阿部さん。同会事務局長として、そして母として訴える。(治徳貴子)

(2009.4.1)

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