中国新聞


ブラジル人児童 帰国増に対応
日本語学級 母国語も指導
海田東小(広島県海田町)


 広島県海田町の海田東小で今春、ブラジル人児童にポルトガル語を教える試みが始まった。地域の自動車関連メーカーで働く親たちが、景気悪化で失業し、家族と一緒に帰国するケースが増えているためだ。町も通訳を派遣するなどバックアップ。不況にさらされた子どもたちの教育環境を地域ぐるみで守る動きも出ている。(榎本直樹)

 ▽町が通訳派遣 地域も支援

 「これは『ウ』と発音します」。非常勤講師の川西進さん(40)が、黒板に書いたアルファベットの「u」を指す。「i(イ)」「o(オ)」と続け、集まったブラジル人児童20人に「じゃあ、書いてみよう」と呼び掛けた。

 海田東小にある日本語指導学級「アミーゴ教室」で4月に始まったポルトガル語の授業。毎週火曜日の5時限目に開かれ、希望するブラジル人児童が出席する。

 教材は、ポルトガル語に堪能(たんのう)な川西さんが作ったプリント。児童は点線を鉛筆でなぞりながら、文字の形や書き順を覚える。

 「できた?」と川西さんがたずねると、3年のコダニ・トゥエニさん(8)は「少し難しいなあ」とはにかんだ。「でも頑張らないとね」。アルファベットを繰り返し書きなぞっていく。25日に、家族と一緒にブラジルへ帰国することが決まっている。

 校区に自動車関連工場の集積する海田東小では、全校児童465人のうち外国人は38人。うちブラジル人は32人を占めている。

 ▽自動車不況が直撃

 保護者の多くは日系人労働者で、自動車不況が深刻化した昨秋以降、雇用を打ち切られるケースが相次いでいる。やむなく帰国する家庭も多く、児童数は昨年に比べ8人減っている。

 ただ、日本で長く過ごしたため、ポルトガル語を話せても読み書きに不自由する児童たちも多い。帰国後の生活を心配する保護者の要望を受け、ポルトガル語の指導に踏み切った。

 「今回の帰国は予想していなかった。突然の不況に子どもが巻き込まれるのがつらい」と、トゥエニさんの母マリアさん(46)。「少しでもポルトガル語の読み書きを身に付けさせたい」と願う。

 しかし、児童の日本での滞在期間は異なり、ポルトガル語、日本語とも語学力には幅がある。「児童の語学力に合わせたきめ細かな学習指導が必要」と、川西さんは指摘する。

 こうした現場の声に応じ、町もサポートを強めている。5月からは、日系ブラジル人で町臨時職員の阿武アリネさん(29)を週3回、アミーゴ教室に派遣。通訳やポルトガル語の指導に当たり、授業でのコミュニケーション不足を補っている。

 ▽地元の7人が登録

 加えて、地域の住民たちにもアミーゴ教室を支援する動きが広がっている。昨年10月には住民グループ「アミーゴボランティア」が発足。地元の7人が登録し、週に2、3日、教室を訪問。子どもたちの計算や漢字の書き取りをアドバイスしている。

 金沢緑校長は「不況から子どもたちの教育環境を守っていくのも学校の役割」と、ポルトガル語指導を導入した理由を説明する。そして今後の課題として、語学指導ができる人材の確保を挙げる。

 「ただ、学校独自の取り組みには限界がある。不況に揺れる外国人児童の教育環境を守るには、児童の家庭や地域との連携強化が重要」と強調した。


クリック 海田東小のアミーゴ教室 海田町教委の要請で県教委が1996年度に設置した日本語指導学級。アミーゴ教室は愛称。外国人児童は週14〜2時間の授業で、在籍するクラスを離れて教室に移動し、日本語を学ぶ。担当教諭2人が高、低学年の2グループに分けて指導している。教室に通う時間は、児童の日本語レベルに沿って学校と保護者が協議して決める。県教委によると、県内の日本語指導学級の設置校は2008年度、小学校42校、中学校25校に上る。

(2009.6.1)

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